オーディオと偏愛(その2)
ステレオサウンド 53号の編集後記で、Oさんが六本木のL洋菓子店のことを書かれている。
ルコントのことだ。
Oさんからルコントを教えてもらってからの私の偏愛ぶりはひどかった。
一週間は会社が休みの日以外は毎日通っていた。
Oさんの編集後記に出てくるレアチーズケーキ、
それからシャルロットポワールのフランポワーズのソース添え、
この二つは必ず注文していた。
レアチーズケーキというのが世の中にあるということは、
53号の編集後記で知っていた。
そのころ田舎暮しだった私にとって、
チーズケーキとは焼いたチーズケーキのことしか知らなくて、
レアチーズケーキ? という感じだった。
レアチーズケーキを食べたのは、東京に出てから、
それもステレオサウンドで働くようになってからだった。
ルコントのレアチーズケーキが最初ではなかった。
誰かのみやげで、赤坂のトップスのレアチーズケーキが最初だった。
これがレアチーズケーキなのか、
初めて見るケーキでもあったし、こんなに美味しいものなのか、と感激もした。
ルコントのことを教えてくれたのは、それからしばらくしてのことだった。
六本木のルコントは二階が喫茶室だった。
別項で書いている西新宿にあった珈琲屋という喫茶店には一人で行っていたけれど、
ケーキ店に一人で行くのは初めてだった。
それでもルコントのレアチーズケーキは、トップスのなんて目じゃない、
そう聞かされていたから、恥ずかしいという気持よりも、
ルコントのレアチーズケーキを食べたい、という気持のほうがずっとずっと強かった。