菅野沖彦氏のこと(味も人なり、か・その1)
1987年ごろだったか、試聴のあいまに、
菅野先生がチャーハンの話をされたことがある。
昔、有楽町のガード下に、ミルクワンタンという店があって……、から話は始まった。
菅野先生によると、そこで食べたチャーハンが、
これまで食べたなかでいちばんおいしかった、ということだった。
けれど、その店もなくなって、
なかなかおいしいチャーハンに出合わない、と。
最近食べたなかでは、荻窪にある徳大のチャーハンがよかった。
それでもミルクワンタンのチャーハンと較べてしまうと……、ともいわれた。
ちょうどそのころ吉祥寺にある中華屋で、おいしいチャーハンに出合っていた。
汚い店である。
雑居ビルの上の階にあった。
店の名前とビルの名前が同じだったから、店主はビルのオーナーでもあったのか。
そのへんはわからないし、いまその店はない。
チャーハンといっても、高級中華料理店に行けば、
豪華な食材を使った、高価なチャーハンはある。
それはそれでおいしいけれど、ここでのチャーハンは、そういう類のチャーハンではない。
それこそ具材はチャーシュー、卵……といった、ごくシンプルなチャーハンのことだ。
なので、その吉祥寺の中華屋のことを話した。
かなり興味をもたれたようで、次の試聴のときに、その中華屋のことが話題になった。
開口一番「ひどいめにあったよ、なんだ、あの店(店主)は」といわれながらも、
「あのチャーハンは絶品だよ、でも、あの店主はひどいね」と続けられた。