菅野沖彦氏のこと(その8)
別項「確信していること(その26)」でも引用していることを、
もう一度書いておこう。
「ステレオのすべて ’77」の、
「リアリティまたはリアリスティックとプレゼンスの世界から いま音楽は装置に何を望むか」は、
黒田恭一、菅野沖彦、瀬川冬樹、三氏による鼎談であり、
ひところ同じといえるJBLのシステムを鳴らしながらも、
菅野先生の音と背が保線性の音は、はっきりとした違いもあったはず。
二人の音について考える上でも読んでおきたい。
しかもこの年の春に出ているステレオサウンド 38号の、
いわば続きといえる内容だけに、
38号の特集「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」とあわせて読みたい。
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菅野 僕は瀬川さんといつもよく話すことなんだけど、瀬川さんもJBLが好きで、僕もJBLが好きで、何年か前に瀬川さんのところへ行ってJBLを聴かせていただいた時にものすごくすばらしい音だと思った。だけどそこで聴いた音はね、僕からするとまったく今我々の申し上げたプレゼンスの傾向としてすはらしい音だと思ってしびれたわけです。それで僕が鳴らしているJBLというのは今度は今いったリアルの傾向で鳴らしているわけですね。それでよくお互いに同じスピーカーを使ってまあ鳴らし方がちがうなというふうに言っているわけで、つまりこれは鳴らし方にも今製品で言ったけどね、鳴らし方にもそういう差が出てくるというね、そこまで含められてくるでしょうね。
黒田 それで今回のこの企画のことを話された時に、菅野さんのそのリアリスティックで聴くっていう話しを聞いて、僕はやっぱり以前その聴かせていただいた音がピンときている。なるほどあれはリアリスティックという言葉を好んで使いそうな男の音だと、それで瀬川さんはプレゼンスだと。全くそうだと。それはその両者がそういう言葉を頻繁にお使いになるのは当然だと僕は思ったんです。で、ただその煮つめていけばどっかで同じになっちゃうことなんで、それを何かここではっきりさせようというのがどうもその編集部の意図らしいんです。
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鼎談のタイトルになっているリアリティ(リアリスティック)とプレゼンス。
このふたつは、
そして菅野先生と瀬川先生の音は、最終的には同じになってしまうであろうことは、
菅野先生のリスニングルームで、
ジャーマン・フィジックスのDDDドライバーを中心としたシステムの音を聴いていて、
感じていたし、そのことは菅野先生にも話している。
菅野先生も、瀬川先生が生きておられれば、
ジャーマン・フィジックスを鳴らされているだろう、ということに同意された。