菅野沖彦氏のこと(ベートーヴェン観)
昨晩、そういえば──、と思い出した。
菅野先生は指揮者ピエール・モントゥーがお好きだった。
ピエール・モントゥーって、誰? という人も、いまではいるだろう。
モントゥーは、1964年に亡くなっている。
クラシックはさほど関心のない人でも、フルトヴェングラー、カラヤン、
ワルター、バーンスタインの名前は知っていようが、
モントゥーの名前を知っていて、録音を聴いたことがある、という人は、
いまやほんとうに少ない、と思う。
モントゥーはフランス人だった。
フランス人のクラシック演奏家といえば、イヴ・ナットもお好きだった。
イヴ・ナットのベートーヴェンのピアノソナタ全集は、菅野先生の愛聴盤でもある。
イヴ・ナットに師事していたフランスのピアニスト、ジャン=ベルナール・ポミエの全集も、
ナット以来の愛聴盤となった、とステレオサウンド別冊「音の世紀」で書かれていた。
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ドイツ系の演奏も嫌いではないが、ベートーヴェンの音楽に共感するフランス系の演奏家とのケミカライズが好きなのだ。ベートーヴェンの音楽に内在する美しさが浮き彫りになり、重厚な構成感に、流麗さと爽快さが加わる魅力とでも言えばよいか?
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ポミエについて書かれていることは、そのままイヴ・ナットにも、
ピエール・モントゥーの演奏にもあてはまる。
「音の世紀」では、カルロス・クライバーのベートーヴェンの交響曲第五番と七番も、
21世紀に残したディスクの一枚として選ばれている。
クライバーはフランス系ではないが、クライバーのベートーヴェンも、
重厚な構成感に、流麗さと爽快さが加わる魅力を有している。
イヴ・ナットをお好きだったことは、かなり以前から知っていた。
それでも、ナットの素晴らしさをすんなり理解できるようになったのは、
私の場合、40になっていた。
後期のソナタも素晴らしかったけれど、それ以上に私の耳には初期のソナタが魅力的だった。
いまになって、菅野先生と、
ナットのこと、モントゥーのこと、ポミエのことを話しておけばよかった──、とおもうばかりだ。