A CAPELLA(とMojo・その5)
「緻密なメカは、セクシーだ」ということでは、
われわれの世代、上の世代のオーディオマニアには、
ステラヴォックス、ナグラのオープンリールデッキがまさしくそうである。
どちらもスイス製、しかも高価だった。
熊本のオーディオ店では実物を見ることはなかった。
東京に来てからも、オーディオ店で見た記憶はない。
写真や映画に登場した、これらのメカを見ては、
使う目的はほとんどないにもかかわらず、欲しい、と思っていた。
この時代、小型でも優れた音ということになると、途端に高価になる。
国産の小型コンポーネントは、ナグラやステラヴォックスのような製品ではなかった。
比較的安価な製品だった。
このことは瀬川先生も、
《それが当り前で、パワーアンプに限らず、同じ時代に同じような内容のものを超小型化しようとしたとき、もし音質を少しも犠牲にしたくなければはるかに高価につくし、同程度の価格でおさえるなら音質は多少とも聴き劣りするはずだ。それでなければ大型機の方が間違っている》
と書かれている。
国産の小型コンポーネントのそれぞれの価格は、CHORDのMojoより少し高いくらいに抑えられていた。
当時の小型コンポーネント(その4)で引用した瀬川先生の文章にあるように、
音にこだほるオーディオマニアにとっては身構えせずに聴ける、いわばサブ的なシステムとして、
《音楽を、身構えて聴くことなど思ってもみない人たち》にとってはメインのシステムとして、
素直に受け止められる。
ではMojoはどうかといえば、
《音楽を、身構えて聴くことなど思ってもみない人たち》にとってのメインのシステムの一部となる。
オーディオマニアにとっても、そうなるだけの音を聴かせてくれる。
身構えて聴いても、というより、
シンガーズ・アンリミテッドの“A CAPELLA”では、身構えて聴きたくなる音を再現してくれたからだ。
これは、MojoがD/Aコンバーターという、デジタル機器のひとつだからかもしれない。