A CAPELLA(とMojo・その6)
瀬川先生は「コンポーネントステレオの世界 ’79」では、こうも書かれていた。
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35ミリカメラの一眼レフの流れをみても、最初はサブ機的なイメージでとらえられていたものが、数年のあいだに技術を競い合っていまや主流として、プロ用としても十分に信頼に応えている。オーディオもまた、こうした道を追って、小型が主流になるのだろうか? 必ずしもそうとは言いきれないと思う。
たしかに、ICやLSIの技術によって、電子回路はおそろしく小型化できる。パーツ自体もこれに歩調を合わせて小型化の方向をとっている。けれど、オーディオをアナログ信号として扱うかぎり、針の先でも描けないようなミクロの回路を通すことは、やはり音質の向上にはならないだろう。プリント基板にエッチングされた回路では電流容量が不足して音質を劣化する、とされ、エッチング層を厚くするくふうをしたり、基板の上に銅線を手でハンダづけする手間をかけて、音質の向上をはかっている現状では、アンプの小型化は、やはり限度があるだろう。オーディオがディジタル信号として扱われる時代がくれば、手のひらに乗るアンプも不可能ではなくなるだろうが……。
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MojoはD/Aコンバーターだから、半分はアナログ信号を扱っているけれども、
それでもD/Aコンバーターとしての性能は、
デジタル信号のアナログ信号への変換部分にかかっているといえるし、Mojoというより、
CHORDのD/Aコンバーターの技術的特徴は、まさにこの部分にある。
Mojoがアナログ信号だけを扱うオーディオ機器であったら、
Mojoのサイズと価格で、Mojoに匹敵する音を実現するのは困難(というより無理)といえる。
別項「redundancy in digital」を書いていることと対極にあるデジタル機器が、Mojoともいえる。
Mojoは手軽に扱ってもそれなりの音は聴かせてくれる。
「Mojo、いいけれど、それでもこのサイズ、この価格を少し超えている程度だよね」
そんなふうに捉えている人がいても不思議ではない。
あのサイズ、あの重さだから、どこかにポンと置いて接続して鳴らす。
本来はそういう使い方をしてもいい製品なのだろう。
Mojoとは、Mobile Joyを略した型番である。
だから、9月21日の夜、野上さんのところであれこれやったようなことを、
Mojoは、ユーザーに要求していないのかもしれない。
それでも、あれこれやれば、しっかりは音は変化していく。
そうやって得られる音は、デジタル機器ゆえの進歩を実感させるとともに、
Mojoの、もうひとつの意味についても気づかされる。