聴感上のS/N比と聴感上のfレンジ(その10)
(その1)で書いているように、
CR方法は電源トランスに対して行われていたものだ。
それを私が「五味オーディオ教室」でのテレフンケンのS8のスピーカーでの記述。
そこに《配線図にはない豆粒ほどのチョークやコンデンサー》が、とあった。
このふたつのことを当時中学生だった私は、勝手に結びつけたわけだ。
だから本来は電源トランスであり、それを私はスピーカーユニットにも有効のはずだと考えた。
実際に有効である。
ならば次に考えるのは信号系のトランスである。
入力トランス、段間トランス、出力トランスなどがある。
いずれ試してみようと考えていたところに、Oさんから興味深い記事のコピーが届いた。
ラジオ技術(1968年10月号)掲載の300Bシングルアンプの製作記事である。
筆者は葉山滋氏(ラックスの上原晋氏のペンネーム)で、
記事を見ればわかるように当時話題になっていたステレオ・ギャラリーQのアンプそのものである。
一見すると見逃しやすいが、このアンプの出力トランスの16Ω端子には、
20Ωと0.05μFの直列回路が並列に接続されている。
これについて上原晋氏は、《段間に使われる積分形補正素子とは少し違う狙い》とされている。
スピーカーを接続しない状態でも、
超高域で出力トランスが無負荷になることを防止するもの、とのこと。
高域でインピーダンスの上昇するスピーカーは多く、
これらが接続された場合の20kHz以上の帯域で常に負荷がかかるようにするためである。
参考例としてラックスの出力トランスの、16Ω負荷時と開放時の周波数特性が載っている。
二次側が開放になっていると、20kHz以上で大きな差となる。
周波数特性のグラフは500kHzまで測定されているが、
500kHzでは15dBほどの違いであり、開放になっていると高域は確かにあばれている。
こういう現象が起るのは、
出力トランスの分割巻きれた各セクションの持つリーケージインダクタンス、
線間容量、対アース容量、各セクション間の結合容量の影響が、
適正な負荷がかかっていればバランスが保たれるのが、
無負荷ではバランスが崩れるために生じてしまう、とある。