マーラーの第九(Heart of Darkness・その9)
クラウス・テンシュテットの名を知ったのも、
テンシュテットのLPで最初に買ったのもマーラーだった。
東ドイツの指揮者だったテンシュテットは、1971年に西ドイツへ亡命している。
1925年生れのテンシュテットではあったが、そのためあまり名が知られているわけではなかった。
はっきりとは記憶していないが、
黒田先生は、テンシュテットを海中深く潜っていた潜水艦に喩えられていた。
EMIから出ていたロンドンフィルハーモニーとのマーラー。
その印象が強いだけに、潜水艦ということに妙に納得していた。
テンシュテットのマーラは、二番のLPを最初に買った。
次に、五番か四番を買ったはずだ。一番は買わなかった。
そういえば、いまだテンシュテットのマーラーの一番は聴いていない。
そして六番を、発売後すぐに買った。
(その6)で書いているように、
これが六番の、私にとって最初のLPだった。
テンシュテットのマーラーのなかで、六番はよく聴いていた。
テンシュテットの発売になっていたマーラーすべてを買ったわけでもないし、
聴いていたわけでもないから、六番がテンシュテットの演奏でもっとも素晴らしいとはいわないが、
集中的に聴いていた。
どこか、その行為には、
ステレオサウンドの試聴室でくり返しきいたレーグナーの六番を、
テンシュテットの六番によって消し去ろうとしていたところもあったのかもしれない。
それから、いくつもの六番を聴いている。
バーンスタインの再録も聴いているし、他の指揮者でも当然聴いている。
もういまでは六番を聴くことは、すっかりしなくなった。
六番を聴きたい、とおもうことがなくなっている。
でも、そろそろもう一度テンシュテットの六番を聴いてみようか、と思っているところだ。