シングルボイスコイル型フルレンジユニットのいまにおける魅力(その7)
BOSEの901というスピーカーは、私にとっては、
どこか心の隅にひっかかっている存在である。
欲しい、とまで強烈におもうことはなかったけれど、
いいスピーカーだな、とおもうことは度々あった。
それはきまって井上先生が鳴らされた901の音である。
それ以前も、一度901の音は聴いてはいた。
鳴っているのを聴いた──、ぐらいのものでしかなかった。
おもしろいスピーカーなのかもしれないけど……、その程度の感触しかなかった。
けれど井上先生が、ステレオサウンドの試聴室で鳴らされる901の音は、違った。
この音を聞いているかいないかは、
901という独得のスピーカーの存在を肯定するかどうか、と同じことだ、といいたくなるくらいに、
私の中では901の音は、井上先生が鳴らされた音である。
901に搭載されているユニットは10cm口径のフルレンジである。
それを前面に一発、後面に八発配置している。
901は、私がオーディオに興味をもったときにはすでにあった。
その構成ゆえ、日本では、カワリモノ的スピーカーという括りでもあった。
そういう見方をしうない人でも、
日本のそのころの住宅環境では鳴らしにくいタイプという認識であった。
それでも、なんとなくおもしろいスピーカーだな、と思いながらも、
ユニットが、こんなモノでなくて、
例えば同軸型だったら……、
具体的にいえば、タンノイのHPD295Aがついていたら……、とおもっていた。
小口径フルレンジの良さをわかっていなかったから、である。