とんかつと昭和とオーディオ(その4)
一時間ほど残業していた日だった。
終ってそろそろ帰ろうとしていたら、となりの編集部、
そのころOさんはサウンドボーイの編集長だった。
伊藤先生の記事を作っていたOさんが「メシに行くぞ」と声をかけてくれた。
それまでも六本木にあるいくつかの店に連れていってもらっていた。
今日はどこなんだろう、と会社を出たら、裏にある駐車場に歩いていく。
会社の車に乗り、向ったのが浅草の河金だった。
しかも行き先は到着するまで教えてくれなかった。
浅草に来たのも初めてだった。
店に着いて、ここが、あの編集後記に書かれていた洋食やKなのか、とわかった。
メニューは豊富だった(と記憶している)。
何にしようかと迷っていたら、Oさんが勝手に注文してくれた。
編集後記にあるコロッケ二個とメンチカツ二個のニコニコ、
それにオムライス(それも大盛りで)、豚汁、
そしてトンカツだった。
河金のトンカツはサイズで選べる。
Oさんは「お前は大食いだから、このぐらいいけるだろう」と言って、
私の分は二百匁のトンカツを頼む。
そのころの私は匁という単位を知らなかった。
二百匁がどの程度の大きさなのか想像がつかなかった。
ただ大きいんだろうな、ぐらいに思っていたら、テーブルに置かれたとんかつのサイズは、
いままでみたことのない大きさだった。
一匁は3.75g、二百匁だから750gのトンカツである。
Oさんは五十匁だった。
この大きなトンカツ、コロッケ、メンチカツにかけたのは、もちろんウスターソースである。
Uソースのウスターである。