オーディオとバイアス(ブラインドフォールドテスト・その2)
ステレオサウンド 59号に、瀬川先生によるアキュフェーズのM100の記事が載っている。
M100は出力500Wのモノーラルパワーアンプで、
1981年当時、コンシューマー用アンプで500Wの出力をもつのは、
マッキントッシュのMC2500(こちらはステレオ仕様)ぐらいしかなかった。
だから、瀬川先生のM100の記事は、
《500W? へえ、ほんとに出るのかな。500W出した音って、どんな凄い音がするのかな……と、まず思うだろう》
で始まる。
500Wの出力ときいて、聴く前から、誰もが瀬川先生と同じように思ってしまうだろう。
1981年当時はそうだった、といえる。
M100の記事を読み進むに連れて、
58号でのSMEの3012-R Specialと同じようなことを感じていた。
記事の終り近くに、こう書かれている。
*
ともかく、今回の本誌試聴室の場合では、640Wまでを記録した。これ以上の音量は、私にはちょっと耐えられないが、アンプのほうは、もう少し余裕がありそうに思えた。500Wの出力は、十二分に保証されていると判断できた。
しかし、M100の本領は、むしろ、そういうパワーを楽々と出せる力を保持しながら、日常的な、たとえば1W以下というような小出力のところで、十分に質の高い音質を供給するという面にあるのではないかと思われる。
そのことは、試聴を一旦終えたあとからむしろ気づかされた。
というのは、かなり時間をかけてテストしたにもかかわらず、C240+M100(×2)の音は、聴き手を疲れさせるどころか、久々に聴いた質の高い、滑らかな美しい音に、どこか軽い酔い心地に似た快ささえ感じさせるものだから、テストを終えてもすぐにスイッチを切る気持になれずに、そのまま、音量を落として、いろいろなレコードを、ポカンと楽しんでいた。
その頃になると、もう、パワーディスプレイの存在もほとんど気にならなくなっている。500Wに挑戦する気も、もうなくなっている。ただ、自分の気にいった音量で、レコードを楽しむ気分になっている。
そうしてみて気がついたことは、このアンプが、0・001Wの最小レンジでもときどきローレベルの表示がスケールアウトするほどの小さな出力で聴き続けてなお、数ある内外のパワーアンプの中でも、十分に印象に残るだけの上質な美しい魅力ある音質を持っている、ということだった。夜更けてどことなくひっそりした気配の漂いはじめた試聴室の中で、M100は実にひっそりと美しい音を聴かせた。まるで、さっきの640Wのあの音の伸びがウソだったように。しかも、この試聴室は都心にあって、実際にはビルの外の自動車の騒音が、かすかに部屋に聴こえてくるような環境であるにもかかわらず、あの夜の音が、妙にひっそりとした印象で耳の底で鳴っている。
*
アキュフェーズのM100は、瀬川先生が中目黒のマンションで4345を鳴らされたアンプである。
聴く前の思い込み、バイアスは、
そこで鳴った音がいい音であれば、いつのまにか消えてしまっている。