80年の隔たり(その6)
アナログフィルターの一致に関しては、CDプレーヤーの登場によってくずれてしまったが、
特にそのことを批判する気は全くない。
この基本原則にとらわれていては、録音側も再生側も、いまのような進歩は望めなかっただろうから。
1980年ごろから、クラシックに関してはデジタル録音が増えてきた。
それにともない、録音テクニックも変わってきた。
82年10月にCDが登場して、しばらくは「ヴァイオリンの音はひどい、聴くに堪えない」、
と書かれたり言われたりしてきた。
ほんとうにそうだったのだろうか。
録音、再生ともに、デジタル技術の進歩、使いこなしがこなれてくるとともに、
実はデジタルになって良くなったのは、ヴァイオリンの音だと、すこしずつ確信できるようになった。
直接聴くヴァイオリンの音に近い再生が可能なのは、デジタルの方である。
たしかにアナログ録音のLPをうまく再生したときの音は、味わいぶかいものがあるし、
ときに妖しい響きを奏でてくれる。
そういう音が出たときの喜びは大きいものだし、苦労が多ければ、
当人にとってはかけがえのない大切な響きなことはわかる。
けれど、どちらがヴァイオリンの再生として優れているかではなく、
どちらがよりヴァイオリンそのものの音に近いかといえば、
優れたデジタル録音だと、私は言う。