598というスピーカーの存在(その35)
私の手元には、長岡鉄男氏の文章が載っているオーディオ雑誌はほとんどない。
それでも数冊はある。
その中の一冊、別冊FM fanの17号(1978年春号)、
特集記事は「プレイヤーはこうあるべきだ マイ・プレイヤーを語る」と
「最新カートリッジ26機種フルテスト」である。
つまりアナログプレーヤーの特集である。
巻頭の、カラーの見開きページには、
江川三郎、大木恵嗣、高城重躬、山中敬三、瀬川冬樹、飯島徹、長岡鉄男、石田善之、
八氏の愛用プレーヤーが紹介されている。
この記事で、長岡鉄男氏は、冒頭にこう書かれている。
*
プレイヤー・システムについての考え方も、プレイヤーそのものも、この十年間あまり変わってはいない。基本的には、動くものは丈夫で軽く、それを支えるものは丈夫で重く。そしてトータルバランスを重視するということである。
*
トータルバランスという単語は、二ページの文章中四回登場する。
見出しにも、「トータルバランスを狙うこと」とある。
もう一冊、ラジオ技術の1997年1月号、
アンケート特集「ケーブルについてこう考える」でも、
長岡鉄男氏はバランスということについて触れられている。
*
金があり、あまっている人は別として、一般のユーザーは装置とのバランスで適当なケーブルを使うべきだ。ちなみに筆者の使用ケーブルは、価格的には一般ユーザーの水準をはるかに下回るものである。
*
まっとうなことを書かれている。
(その33)で引用したところにも、
598のスピーカーのアンバランスであることを指摘されているのは、
その流れで考えれば、ごく当り前のことであるわけだが、
ならばなぜ、598のスピーカー全盛のころ、
スピーカーシステムもトータルバランスが重要である、と書かれなかったのか、
そして実際の598のスピーカーのアンバランスさを指摘されなかったのかが、
疑問として残る。
おそらくというか、間違いなく、
長岡鉄男氏はスピーカーシステムもトータルバランスが重要であると考えられていたはずだ。