アンチテーゼとしての「音」(その6)
いつごろから使われるようになったのか正確には記憶していない。
ここ数年よく耳にするようになったのが、
「フツーにうまい」とか「フツーにかわいい」といったいいまわし。
フツーはいうまでもなく普通であわけだが、
文字は別として、耳には「普通にうまい」ではなく「フツーにうまい」に近い。
普通にフツーにしても、「うまい」の頭になぜつけるのか、と思う。
うまい(おいしい)ということは、ふつうのことなのか、といいたくもなる。
オーディオも「フツーにいい音」といったりするのだろうか。
この「フツーに○○」が使われるようになる前から、ラーメンはブームになっていた。
東京に住んでいるとラーメン店の増殖ぶりはすごい。
さまざまなタイプのラーメンがある。
ラーメンがブームになって感じるのは、まずいラーメン店がきわめて少なくなってきたこと。
ラーメン・ブームの前は、あきらかにまずい店が少なくなかった。
よく言っていたのは、インスタントラーメンでもこれよりずっとうまいよ、とか、
どうやったら、これほどまずくつくれるんだろう……、とかだった。
いまではそういうラーメン店を見つける方が難しくなってきている。
このことはラーメン・ブームが定着した証しなのかも、とも思ったりする。
けれど、ほんとうにおいしいと感じるラーメン店の絶対数は、
それほど増えていない気もする。
昨晩も知人ととあるラーメン店に行った。
常時ではないが、時間帯によっては行列ができているくらいには評判の店だ。
男性客だけでなく、女性客も多い。
出てきたラーメンは、おいしいかと問われればおいしい、と答えるが、
食べながら、「これがフツーにうまいというものか」と思ってしまった。
まずくはない、といった意味でのうまいではなく、
確かにうまいラーメンである。
でも食べながら、どこか冷静に食べていることに気づいている。
夢中になって……、というところからは離れての食事だったともいえる。