Date: 7月 22nd, 2016
Cate: 世代
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世代とオーディオ(JBL SE408S・その11)

JBLの一連のアンプの音といえば、私にとっては、瀬川先生の文章が浮ばないことは絶対にない。
1981年のステレオサウンド別冊の巻頭「いま、いい音のアンプがほしい」に書かれていること、
そのことがそのままJBLの音と直結している、といってもいい。
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 昭和41年の暮に本誌第一号が創刊され、そのほんの少しあとに、前記のプリメインSA600を、サンスイの新宿ショールーム(伊勢丹の裏、いまダイナミックオーディオの店になっている)の当時の所長だった伊藤瞭介氏のご厚意で、たぶん一週間足らず、自宅に借りたのだった。そのときの驚きは、本誌第9号にも書いたが、なにしろ、聴き馴れたレコードの世界がオーバーに言えば一変して、いままで聴こえたことのなかったこまかな音のひと粒ひと粒が、くっきりと、確かにしかし繊細に、浮かび上り、しかもそれが、はじめのところにも書いたようにおそろしく鮮度の高い感じで蘇り息づいて、ぐいぐいと引込まれるような感じで私は昂奮の極に投げ込まれた。全く誇張でなしに、三日三晩というもの、仕事を放り出し、寝食も切りつめて、思いつくレコードを片端から聴き耽った。マランツ♯7にはじめて驚かされたときでも、これほど夢中にレコードを聴きはしなかったし、それからあと、すでに十五年を経たこんにちまで、およそあれほど無我の境地でレコードを続けざまに聴かせてくれたオーディオ機器は、ほかに思い浮かばない。今になってそのことに思い当ってみると、いままで気がつかなかったが、どうやら私にとって最大のオーディオ体験は、意外なことに、JBLのSA600ということになるのかもしれない。
 たしかに、永い時間をかけて、じわりと本ものに接した満足感を味わったという実感を与えてくれた製品は、ほかにもっとあるし、本ものという意味では、たとえばJBLのスピーカーは言うに及ばず、BBCのモニタースピーカーや、EMTのプレーヤーシステムなどのほうが、本格派であるだろう。そして、SA600に遭遇したのが、たまたまオーディオに火がついたまっ最中であったために、印象が強かったのかもしれないが、少なくとも、そのときまでスピーカー第一義で来た私のオーディオ体験の中で、アンプにもまたここまでスピーカーに働きかける力のあることを驚きと共に教えてくれたのが、SA600であったということになる。
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本誌第9号にも書いた、とある。
ステレオサウンド 9号(1968年12月発売)は創刊3周年記念号で、
特集は「現代オーディオ人群像」で、16人の読者が登場されている。
続いて「再生装置拝見」で、
瀬川冬樹、菅野沖彦、上杉佳郎、山中敬三、四氏のリスニングルームが紹介されている。

ここでも瀬川先生はJBLのアンプ(SA600)について書かれている。
一部重なるところはあるものの、こちらもぜひ読んでほしい。
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 JBLのアンプが大変優れたものらしいとは、外誌などで承知していたが、むろんまだ聴かない音の真価が想像できるものではない。ひょんなことから、サンスイのショールームにサンプルで置いてあったSA600を借りられることになった。
 あのときの音の驚きは決して忘れない。大げさに云えば驚天動地だった。突然、スピーカーの音が一変したのだったから。接続を終えて音が出たのは深夜だった。小さな音量なのに、聴き馴れたレコードが様相を一変して、まるで、精密にピントの合った写真を拡大鏡でなめるようにのぞいて行くみたいに、楽器のディテールが、オーケストラのパートパートが、演奏家の息づかいが、気配が、眼前に展開しはじめたのだ。いったいこれはどういうことなのだろう。いままでのアンプがどうかしていたのだろうか。我を忘れて、思いつくレコードを息つく間もなくかけかえて、耳を澄ました。
 わたくしは緊張してものを言っているのだろうか。決してそうではない。あの驚きは、どんな書き方をしたところで、とうてい言い尽くせるものではない。まる三日というもの、ほとんどスピーカーの前に坐りこんだまま、そしてそば狗奴驚きの命ずるままに、あとからあとからレコードを聴き続けた。明らかに、わたくしの中でひとつの価値感が変って行ったのだった。
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まだまだ書き写していきたいが、このへんにしておく。
《明らかに、わたくしの中でひとつの価値感が変って行ったのだった》
まことそうだったのだと思う。

SA600はSE408Sをベースに、コントロールアンプ機能を取り付け、プリメインアンプ化したモノ。
SA600のリアパネルは、SE408Sのダイキャストフレームがそのまま使われている。
そのため入力端子はリアパネルには取り付けられず、アンプ底部にまとめられている。

このSA600の存在があるから、私にとってのJBLのパワーアンプといえば、
SE401ではなく、SE408S(SE400S)ということになる。

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