価値か意味か(その4)
瀬川先生の著書「オーディオABC」の下巻を手に入れた。
古書店を探し廻って見つけた、のではなく、
先日のaudio sharing例会のときに常連のKさんが、「そういえば……」と教えてくれた。
おかげで手に入れることができた。
上巻は、もちろん持ってる。
自分で買った一冊だけでなく、瀬川先生の遺品の二冊も持っている。
上巻が三冊あるのに、下巻が一冊もなかった。
「オーディオABC」に書かれていることは、
新潮文庫の「オーディオの楽しみ」にも、大半が書かれている。
だから下巻の内容は「オーディオの楽しみ」でほとんど読んでいる、とはいえる。
上巻の内容は、スピーカー、アンプ、アナログプレーヤー、それに音についてであり、
下巻は、チューナー、テープデッキに関する内容となっている。
おそらく「オーディオABC」は上巻の方が売れているはずだ。
上巻は何度か古書店で見かけていたが、
下巻を見かけたことはあっただろうか……、と記憶をたどってみてもなかったと思う。
いまチューナー(FM放送)の知識は、どれだけ必要だろうか。
テープデッキに関しても、「オーディオABC」に載っているのはアナログ方式のものである。
そう考えると、「オーディオの楽しみ」は持っているし読んでいるから、
「オーディオABC」の下巻は、私にとって必要な本だったのかといえば、
知識を得るという意味では、必要はなかった、といえる。
「オーディオABC」の下巻の価値は、どうだろうか。
私が購入した店では2000円(税抜き)だった。
それがたまたま半額セールで1000円(税抜き)になっていた。
「オーディオABC」の下巻の定価は1000円。
39年前のオーディオの書籍が、当時の定価の倍の値段ということは、
その店は、その価格で売れる本だという判断の元の値付けである。
けれど売れなかった。
売れないからこそ、半額になり特売品のワゴンの中に入れられていた。
これが、この本への思い入れとは無関係なところでの商業的な価値ということだろう。
今回はたまたま1080円で買えた。
半額セールではなく2160円だったら、どうしたか。
やっぱり買ったはずだ。
私にとって「オーディオABC」の下巻は、2160円の価値は最低でもあるということなのか。
ならば3240円だったら、どうしてたか。買わなかったかもしれない。
もっと高い価格、たとえば5000円をこえていたら、買っていない。
こんなことを考えているのは、「オーディオABC」の下巻は私にとっての価値が、
どういうものなのかがはっきりとつかめないからで、
価値がはっきりとしないものにお金を払うということは、
本の価値ではなく、本の意味を求めての行為なのかもしれないのだ。