Date: 4月 23rd, 2016
Cate: ヘッドフォン
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優れたコントロールアンプは優れたヘッドフォンアンプなのか(その4)

アナログディスク全盛時代、カートリッジを複数個もつ人は特に珍しいことではなく、
オーディオマニアであればそれが当然のことでもあった。

私がオーディオにこれほどのめり込むきっかけとなった「五味オーディオ教室」には、こう書いてあった。
     *
 ある程度のメーカー品であれば、カートリッジひとつ替えてみたところでレコード鑑賞にさほど違いがあるわけはない、とウソぶく者が時おりいる。
 レコード音楽を鑑賞するのは本当はナマやさしいことではないので、名曲を自宅でたっぷり鑑賞しようとなんらかの再生装置を家庭に持ち込んだが最後、ハイ・フィデリティなる名のドロ沼に嵌まり込むのを一応、覚悟せねばならぬ。
 一朝一夕にこのドロ沼から這い出せるものでないし、ドロ沼に沈むのもまた奇妙に快感が伴うのだからまさに地獄だ。スピーカーを替えアンプを替え、しかも一度よいものと替えた限り、旧来のは無用の長物と化し、他人に遣るか物置にでもぶち込むより能がない。
 ある楽器の一つの音階がよりよくきこえるというだけで、吾人は狂喜し、満悦し、有頂天となってきた。そういう体験を経ずにレコードを語れる者は幸いなるかなだ。
 そもそも女房がおれば外に女を囲う必要はない、そういう不経済は性に合わぬと申せるご仁なら知らず、女房の有無にかかわりなく美女を見初めれば食指の動くのが男心である。十ヘルツから三万ヘルツまでゆがみなく鳴るカートリッジが発売されたと聞けば、少々、無理をしてでも、やっぱり一度は使ってみたい。オーディオの専門書でみると、ピアノのもっとも高い音で四千ヘルツ、これに倍音が伴うが、それでも一万五千ヘルツぐらいまでだろう。楽器でもっとも高音を出すのはピッコロやヴァイオリンではなく、じつはこのピアノなので、ピッコロやオーボエ、ヴァイオリンの場合はただ倍音が二万四千ヘルツくらいまでのびる。
 一番高い鍵を敲かねばならぬピアノ曲が果たして幾つあるだろう。そこばかり敲いている曲でも一万五千ヘルツのレンジがあれば鑑賞するには十分なわけで、かつ、人間の耳というのがせいぜい一万四、五千ヘルツ程度の音しか聴きとれないとなれば、三万ヘルツまでフラットに鳴る部分品がどうして必要か——と、したり顔に反駁した男がいたが、なにごとも理論的に割切れると思い込む一人である。
 世の中には男と女しかいない、その男と女が寝室でやることはしょせんきまっているのだから、汝は相手が女でさえあれば誰でもよいのか? そう私は言ってやった。女も畢竟楽器の一つという譬え通り、扱い方によってさまざまなネ色を出す。その微妙なネ色の違いを引き出したくてつぎつぎと別な女性を男は求める。同じことだ。たしかに四千ヘルツのピアノの音がAのカートリッジとBのとでは違うのだから、どうしようもない。
     *
この文章についていた見出しは「よい部品を求めるのは、女体遍歴に通ず」だった。
「なにごとも理論的に割切れると思い込む」人は、
カートリッジを複数個もつことは、無駄なことでしかなかったはず。
いまならカートリッジはヘッドフォン、イヤフォンに置き換えることができる。

カートリッジにしても、ヘッドフォン、イヤフォンも場所はそれほどとらない。
これがアンプ、さらにはスピーカーシステムとなると、場所もとる。
それでもアンプもスピーカーも複数所有している人はいるし、
所有したいと思っている人はもっと多いだろう。

オーディオに関心のない人からすれば、いいモノをひとつ選んで他は処分すればいいのに……、となる。
確かにアンプにしてもスピーカーにしても複数所有することは機能の重複である。
そんなことはオーディオマニアはわかっている。

それでも複数所有するのは、性能の重複ではないからだ。
重複するのは何なのか。
ここのところを、はっきりと家族に理解してもらうのは大事なことだ。

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