Date: 2月 17th, 2016
Cate: 音楽の理解
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音楽の理解(平均律クラヴィーア曲集、ベートヴェンの後期ソナタ・その1)

クラシックを聴き始めた頃と、五味先生の本と出逢ったころは近い。

バッハの平均律クラヴィーア曲集とベートヴェンの後期のピアノソナタのことは、五味先生の本に出てくる。
くり返し出てくる。
こんなふうに書かれている。
     *
 古今のピアノ奏鳴曲の中で、いちばん好きな曲を問われたら、ベートーヴェンの第三十二番ハ短調(作品一一一)を私は挙げる。バッハの『平均律クラヴィーア曲集』を旧約聖書とするなら、ベートーヴェンの後期ソナタは新約聖書だという有名な言葉がある。たしかに後期の四曲(作品一〇六、一〇九、一一〇、一一一)は、聖書にもたとえるべき宗教性・崇厳感・偉大さ、更に人類の有った最も典雅で、輝かしく美しいしらべをちりばめているが——とりわけアダージオでそうだが——そんな四曲の中でも作品一一一を最高の傑作に私は挙げたい。
     *
平均律クラヴィーア曲集は旧約聖書、ベートヴェンの後期ソナタは新約聖書。
聴く前に、この言葉があった。

聖書を読んだこともない中学生が、旧約聖書、新約聖書のたとえにとらわれて、
特別な曲である、と思い込んでいた。

それは思い込みではなく、聴き込むほどに、
平均律クラヴィーア曲集は旧約聖書、ベートヴェンの後期ソナタは新約聖書の感は深くなる。

それでも、そのことをうまくは説明できる自信はなかった。
「ゲーテ格言集」に聖書についてのところがある。
     *
私の確信するところによれば、聖書をよく理解すればするほど、即ち、われわれが一般的に解釈し、特にわれわれ自身にあてはめて考える一つ一つのことばが、ある事情、時、場所の関係に従って、独自の特殊な直接個人的な関連を持っていたことを悟り、味わえば味わうほどに、聖書はますます美しくなる。
     *
このゲーテのことばを読み、
まさしく平均律クラヴィーア曲集は旧約聖書、ベートヴェンの後期ソナタは新約聖書である、と思った。

ゲーテの「聖書」を平均律クラヴィーア曲集、ベートヴェンの後期ソナタにおきかえる。
《味わえば味わうほどに、聖書はますます美しくなる》とある。
ほんとうにそうだと、聴き込んできた人ならば、首肯くはずだ。

味わえば味わうほどに、平均律クラヴィーア曲集はますます美しくなる、
味わえば味わうほどに、ベートヴェンの後期ソナタはますます美しくなる。

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