トーキー用スピーカーとは(トーキー映画以前)
トーキー映画の前は、サイレント映画である。
日本ではサイレント映画には活動弁士がいた。
同じ映画でも、上映する映画館によって活動弁士は違うことになる。
徳川夢声という人気弁士がいたというから、
弁士によって、同じ映画であっても印象が違ってきたはずだ。
うまい弁士もいればへたな弁士もいたはず。
よく話す弁士もいればそうでない弁士も、
それに弁士ひとりひとり声が違う。
徳川夢声の声は「カリガリ博士」にぴったり合っていた、とのこと。
東京においても、山の手の劇場と浅草の劇場とでは違っていたらしい。
山の手調と浅草調とがあったとのことで、浅草の劇場では弁士が歌うこともあり、
歌がうまいと観客も喜び掛け声をかけたりしていたそうだ。
けれど山の手の劇場、山の手調の弁士はぜんぜん違っていたらしい。
東京ですらこれだけ違うのだから、東京と関西とでは違う。
関西の弁士は東京の弁士よりも、よくしゃべる傾向にあった。
人気弁士は、地方の劇場を巡業していたから、
そういう弁士ならば、東京と関西でも同じになるかというと、そうでもないらしい。
徳川夢声はたいへんな飲んべえで、大阪に着くまでにえんえんと飲んでいて、
肝心なときに寝てしまっていた、というエピソードもある。
一本のサイレント映画を、どこで観るのか、どの弁士で観るのか。
そういう楽しみが、当時はあったわけだ。
それがトーキーになりスピーカーがスクリーン裏に設置され、音がついた。
音がついたことで映画の表現力は増し、そこでのトータルのクォリティは管理されることになる。
映画館の違い(弁士の違い)は、もうないわけだ。
サイレント映画における弁士の存在は、
オーディオとまったく関係ないこととは思えない。
なにかひっかかってくるところを感じている。