「正しい音とはなにか?」(その10)
「正しい均衡を保ち、『静力学的』に安定している音」。
この視点から井上先生によるオートグラフの組合せの音をふり返ってみる。
《引締まり、そして腰の強い低域は、硬さと柔かさ、重さと軽さを確実に聴かせ》ると、
オートグラフの音について語られている。
硬さと柔かさ、重さと軽さ、
対極にある性格の音が、確実にあるということは、正しい均衡を保っているといえるのではないだろうか。
静的力学的に安定している音といえるのではないか。
五味先生は書かれている。
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S氏にすすめられ、半信半疑でとったこのタンノイ Guy R. Fountain Autograph ではじめて、英国的教養とアメリカ式レンジの広さの結婚──その調和のまったきステレオ音響というのをわたくしは聴いたと思う。
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英国的教養とアメリカ式レンジの広さの結婚──、
これも正しい均衡を保ち、静的力学的に安定している音だと私は思う。
オートグラフの原型は1953年に登場している。
五味先生のオートグラフにしても1964年につくられたモノだ。
古い古いスピーカーではある。
けれど古いから、新しいから、ということが、正しい音となんら関係してくるのだろうか。
そう思っている人は、何度でもステレオサウンド 51号の五味先生の文章を読み返すべきだ。