「正しい音とはなにか?」(その2)
1979年のステレオサウンド別冊「世界のオーディオ」タンノイ号で、
井上先生が、オートグラフの組合せをつくられている。
この記事の見出しにはこうある、
「オートグラフには、あえてモニターサウンドの可能性を追求してみたい」と。
どういう組合せかといえば、
パワーアンプにはマッキントッシュのMC2300、
コントロールアンプにはマークレビンソンのLNP2。
アナログプレーヤーは、ビクターのTT101ターンテーブルに、
オルトフォンSPU-AとRMA309とフィデリティ・リサーチのFR7とFR64のダブルアーム。
この組合せの音をこう表現されている。
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おそらく実際にこの音をお聴きにならないと従来のオートグラフのイメージからは想像もつかない、パワフルで引締まった見事な音がしました。
オートグラフの音が、モニタースピーカー的に変わり、エネルギー感、とくに、低域の素晴らしくソリッドでダンピングの効いた表現は、JBLのプロフェッショナルモニター4343に勝るとも劣らないものがあります。(中略)
引締まり、そして腰の強い低域は、硬さと柔かさ、重さと軽さを確実に聴かせ、東芝EMIの「マスターレコーダーの世界」第3面冒頭の爆発的なエレキベースの切れ味や、山崎ハコの「綱渡り」の途中で出てくるくっきりしたベースの音や、オーディオラボの菅野氏が録音した「サイド・バイ・サイド」のアコースティックなベース独特の魅力をソフトにしすぎることなくクリアーに聴かせるだけのパフォーマンスをもっています。
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いったいどんな音だったのだろうか、と思いながら、タンノイ号の、この記事を読んでいた。
だからステレオサウンドで働くようになってから、井上先生に、この組合せについてきいたことがある。
ほんとうに、記事に書かれているとおりの音が鳴ってきた、と話してくださった。
オートグラフは複合ホーンのエンクロージュアである。
低域はバックロードホーンになっている。
この構造上、どうしてもベースのピチカートは、ある帯域で尾をひくことがある。
「ベースのピチカートが、ウッ、ゥーンとなるところはあるけれど、聴いて気持ちよければいいんだよ」、
楽しそうにそういわれたことを思い出す。
「正しい音とはなにか?」を思考する者にとって、このオートグラフのベースのピチカートの音は、
絶対に受け入れられない音かというと、そんなことはないし、
井上先生のいわれることは納得がいく。
では、このオートグラフの音は「正しい音(低音)」なのか、
それとも「正しくない音(低音)」、もしくは「間違っている音(低音)」なのか。
私は正しくない、間違っている、とは思わないし、ある面、正しい、と考え、
「正しい」には、絶対的に正しい音というよりも、より正しい音がある、と考えている。
そして「より正しい音」ということが、私の場合、
自身のオーディオの出発点と深く関係しているのではないか──、
最近そう考えるようになってきている。