電子制御という夢(SL10のこと)
ステレオサウンド 55号の編集後記。
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五味先生が四月一日午後六時四分、肺ガンのため帰らぬ人となられた。
オーディオの〝美〟について多くの愛好家に示唆を与えつづけられた先生が、最後にお聴きになったレコードは、ケンプの弾くベートーヴェンの一一一番だった。その何日かまえに、病室でレコードを聴きたいのだが、なにか小型の装置がないだろうか? という先生のご注文で、テクニクスのSL10とSA−C02(レシーバー)をお届けした。
先生は、AKGのヘッドフォンで聴かれ、〝ほう、テクニクスもこんなものを作れるようになったんかいな〟とほほ笑まれた。
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原田勲氏の編集後記である。
〝ほう、テクニクスもこんなものを作れるようになったんかいな〟
テクニクスにとって最上の褒め言葉だと思う。
これを読んでいたから、強く印象に残っていたから、
SL15ではなくSL10を選択したのは、予算の関係もあってだが、五味先生がそういわれたことを知ったからである。
そして、ここでもうひとつ重要なことは、オーディオの〝美〟である。
音の美ではなく、オーディオの美。
オーディオのデザインについて語っても、
音の美しかみえていない人のデザインについて語る言葉と、
オーディオの美をみている人のデザインについて語る言葉の違い。
オーディオの美と音の美。
私はオーディオマニアだ。
五味先生の書かれたものでオーディオの世界に入ってきた。
だからこそのオーディオの美である。