使いこなしのこと(その32)
オーディオの使いこなしには、いくつかの難しさを含んでいる。
そのひとつが、オーディオを音楽を聴くための道具だとしたときに、他の道具との違いとして、
その道具としての働きをしているとき(つまり音楽を鳴らしている音)、
道具の使い手(聴き手)の「手」から離れているところにある。
オーディオに関心のある人は、オーディオにとって使いこなしが大切であることは理解されているけれど、
そうでない人たちにとっては、オーディオの使いこなしへの理解はほとんどないのではなかろうか。
おそらくオーディオも、テレビ、ラジオなどの他の家電製品と同じようにみられていると思う。
このことと、オーディオの使いこなしの難しさは、手から離れてしまうことにおいて関連している。
他の道具──、たとえばオーディオとの引き合いによくだされるカメラや車、
身近なものでは筆や万年筆、それからものをつくる工具類。
オーディオにある意味、近いものでは楽器もそうだ。
これらの道具は、その働きをしているとき、使い手の中にあり、
こちらの身体動作に対してリアルタイムでなんらかの反応を返してくる。
第二の脳、といわれる手になんらかの反応がある。
ところがオーディオは、スピーカーの位置や角度を調整する。
アナログプレーヤーなら、トーンアームの高さ、カートリッジの針圧など、そういったことがらを調整しているとき、
もちろんなんらかの反応(というよりも感触)はあっても、それは「音」ではない。
使いこなしの結果としての「音」が返ってくるとき、使い手は椅子にすわり「聴き手」になっている。
ここに、わずかな時間が生じる。そしてその結果の音は、手ではなく耳で受けとる。