何を欲しているのか(兵士の物語)
ストラヴィンスキーの作品に「兵士の物語」があり、
ジャン・コクトーの語り、マルケヴィチ指揮によるフィリップス盤は録音の良さでも知られていた。
私が買ったのは再発盤。21ぐらいのときに買っている。
そのころは短かったけれど、頻繁に聴いていた時期でもあった。
コクトーの声が生々しかったのも、理由のひとつだった。
コクトーが最後の方で語る。
いま持っているものに、昔持っていたものを足し合わそうとしてはいけない。
今の自分と昔の自分、両方もつ権利はないのだ。
すべて持つことはできない。
禁じられている。
選ぶことを学べ。
一つ幸せなことがあればぜんぶ幸せ。
二つの幸せは無かったのと同じ。
このセリフだけがコクトーの声とともに印象に残っている。
幸せはひとつだから幸せなのかもしれない。
ふたつ以上の幸せを求めようとするから、幸せになれないのかもしれない。
そうなんだろうなぁ……、と思いながらも、実感はなかった。
いまも正直なところ、よくわからない、というか、実感していないような気がする。
でもほんとうに大切なレコードは一枚あればいいのかもしれない、とは最近思うようになってきている。
愛聴盤といってしまうレコード(LP、CD)は、決して一枚だけではない。
かなり厳選したとしてもそこそこの数にはなる。
その中に、一枚の大切な愛聴盤はすでにある。
私だけの話ではなく、ながくレコード(オーディオ)によって音楽を聴いてきた人ならば、
かならず、そういう一枚はある。
その存在にいつ気づくか、である。