ハイ・フィデリティ再考(その35)
菅野先生から何度かきいたことのひとつに、
マスターテープの音よりもレコード(アナログディスク)の音がいい、ということがある。
一般的というべきか、オーディオマニアの多くがマスターテープこそが最上であり、
最高の音が聴けるものという、いわば幻想を抱いているけれど、決してそうじゃない、
と菅野先生は強調されていた。
この話をしても、なかなか信じてもらえなかったり、反論がある場合もある。
そうなってしまうのは、マスターテープこそが絶対的存在として認識されているからではないのか。
そしてマスターテープの音こそが絶対的基準となっているようにも感じてしまう。
それがいつしか最高の音となっていくのではないか。
菅野先生はいうまでもなくオーディオ評論だけでなく、録音、レコード制作も仕事とされていた。
自身のレコード会社であるオーディオラボだけでなく、他のレコード会社でも録音を残されている。
いくつものマスターテープの音を聴き、
そのマスターテープからつくられたレコードの音も聴かれてきた経験から、
マスターテープの音よりもレコードの音がいい、といわれていることを、思い出してほしい。
そしてもうひとつ大事なことは、それはレコード(アナログディスク)である、ということだ。
プログラムソースとしてディスクだからのことであり、
これがテープであればダビングによって複製がつくられていく。
それであればマスターテープの音こそが……、というのはもっともなことである。
だが話はあくまでもレコード(アナログディスク)である。