598というスピーカーの存在(その26)
598のスピーカーシステムが加熱していた1980年代、
私はステレオサウンドの試聴室で井上先生が鳴らされる音を聴いている。
だから598のスピーカーシステムがうまく鳴った時の音は知っている。
けれど、一本59800円のスピーカーシステムを買う人の多く(すべてといってもいい)は、
使いこなしの実力のある人とはいえない。
598のスピーカーが最初のオーディオという人も多かったし、
システムコンポーネントからの次のステップとしての598のスピーカーを購入した人も多かったと思う。
そういう人たちがうまく鳴らせるスピーカーではなかったことは、はっきりといえる。
ステレオサウンドの試聴室という、音を聴くだけの環境で、
アンプにしてもCDプレーヤーにしても、
598のスピーカーとは価格的にアンバランスな機器を組み合わせることがほとんどである。
スピーカースタンドもしっかりとしたモノが用意されていた。
そしていちばんの大きな違いは、鳴らす人。
つまり井上先生が、その場にいるかいないかである。
確かに598のスピーカーシステムは、この価格のスピーカーとは思えないほど物量が投入されていった。
その意味では、お買得なスピーカーといえるけれど、
それはあくまでもスピーカーシステムを、そこに投入された物量だけで判断してのことでしかない。
これだけの物量が投入されていれば、いい音で鳴ってくれる可能性はある。
あるけれど、その可能性をほとんどの人が抽き出せなければ、無駄になるどころか、
そのために使いこなしが難しくなっているのであれば、害になっていたともいえる。