真空管アンプの存在(その62)
瀬川先生が、こんなことを書かれている。
*
ドルビー(ただし一般的なBタイプでなくプロ用のAタイプ)をはじめとするノイズリダクションシステムを通すと、ヒスノイズを含めてそこにまつわりつく何かよごれっぽい雑音がきれいさっぱりと除かれると共に、極めてわずかながら音の余韻の最後のデリケートな響きをあるレベル以下できっぱり断ち切ってしまうようなところもある。
*
長島先生も、表現は異るものの、同じことをよく言われていた。
アンプ内部には、ドルビーシステムのようなノイズリダクション回路は存在しないが、
トランジスターや真空管といった増幅素子の並列仕様によるノイズの打ち消しにも、こういう面がある。
真空管アンプの場合、S/N比を高めるために、安易にヒーターをDC点火する。
なかには三端子レギュレーターを使い、より低インピーダンス・低リップルの直流点火を行っているものがある。
たしかにハムやノイズは低下する。きれいさっぱりな音になり、S/N比は測定上も、一聴すると聴感上も、向上している。
なにもハムやノイズが盛大に出ているのがいい、と言いたい訳ではない。
もちろんハムは確実に、ノイズもできるかぎり減らしていくべきではある。
けれど安易にノイズを減らすことだけに集中してしまうと、なぜノイズを減らすのかを忘れてしまっている。
そんな印象を受けるアンプがある。
大事なのは微小レベルの音、
瀬川先生の言葉をかりると「音の余韻のデリケートな響き」のきわめてわずかなところを、
どこまでクリアーに聴きとれるようにするか、である。