オーディオにおけるジャーナリズム(編集部とは・その1)
こんなことを書くと、
また古巣のステレオサウンド批判(叩き)をやっていると受けとめられる人がいるのはわかっていても、
見過せないことは、やはりあって、それについては何といわれようが書いていく。
誰が、とか、いつの号、とか、どの機種についてはあえて書かない。
個人攻撃をしたいわけではなく、こういう一見些細なことと思われがちなところまで、
編集部が手を抜くことなく、しっかりと本づくりをやってほしい、と思うから、である。
一年ほど前のステレオサウンドに、あるブランドの新製品のパワーアンプの記事が載っている。
出力の具体的な数値を書くと特定されやすくなるから書かないが、
現在のパワーアンプとしては一般的な値の、そのパワーアンプはA級ということらしい。
それにしてもヒートシンクがさほど大きくない。
このパワーアンプの紹介記事を書いた筆者は、そのことに疑問をもたれたのか、
発熱に関して、手で触れないような熱さにはならない、ということを書かれている。
その人は、なぜか、ということについては書かれていない。
これについては私は何かをいいたいわけではない。
おそらく、この筆者は、発熱の少なさに疑問をもたれたのだと思う。
でも、それがなぜなのかまではわからなかった。
だから、あえて発熱について、さらっと書かれている──、
そう私は理解した。
この記事が載った数号あとに出たステレオサウンドに、
別の筆者が、このパワーアンプの発熱について書かれている。
そこには、こんなことを書かれていた。
このパワーアンプの発熱がA級の、ある程度の出力をもったアンプとして多くないのは、
最大出力は大きくても、出力音圧レベルの高い、同じブランドのスピーカーシステムと組み合わせると、
その場合の出力は数W程度だから、発熱は皆無に等しい、とあった。
出力音圧レベルの高いスピーカーシステムと組み合わせれば、確かに出力は大きくとも数Wにおさまる。
だが、それで発熱が皆無に等しい、ということは技術的に間違った説明である。
B級アンプならば、出力の値と発熱量はある程度比例関係にある。
だが、このパワーアンプはA級動作を謳っている。
A級動作のパワーアンプの発熱量どういうものであるのかは、
オーディオの技術的な知識としては、ごく基本的なことである。
それを、正反対のことを、まるで正しいこととして書いている。
でも、この筆者を攻めたいわけではない。
誰だって不得手なことはある。勘違いもある。
オーディオ評論で喰っているのだから、プロとしての文章を書いてほしい、とは思うけれど、
もう、現場をみて、そこまでいまのオーディオ評論家といわれる人たちに要求するのは酷なのかもしれない。
でも編集者はそうであってはいけない。
編集者が、たったひとりならば……、そこまでいまの編集者に求めるのは酷だと思う。
けれど編集者はひとりではない。何人もの編集者がいて、誰もこのあきらかな間違いに気がついていない。
編集部というのは、本をつくっていく組織のはずだ。
そのことが稀薄になっているのではないのか。