素朴な音、素朴な組合せ(その22)
素朴とは、粗末で飾り気のないことをいう。
私がここでつかっている素朴には、粗末という意味は込めていない。
飾り気のない、ありのままというニュアンスで使っているわけであり、
飾り気のない、ありのままの意味では、化粧をしない顔、つまり素顔が、
やはり「素」がつく言葉である。
フィリップスのフルレンジユニットの音は、個性的だと書いた。
確かにいま思い出してみても個性的とはいえる。
けれど、その音が化粧の濃い、いわばややけばけばしいところを感じさせる音だったかというと、
けっしてそういうふうには感じていなかった。
化粧の濃い音だったわけではない。
むしろ化粧をほとんどしていない顔のような音だったのかもしれない。
あの音を、いま聴いたら、そう判断するような気がしてならない。
つまり日本人の顔しか見ていない目で見た時の、
非常に彫りの深い欧米人の顔を見た時のような、
いわば化粧をしていなくともメリハリのきいた顔とでもいおうか、
そういうところを感じさせる音が、フィリップスのフルレンジユニットの特徴だったような気がする。
そうだとしたら、フィリップスの、あの個性の強い音も実は素朴な音のひとつだったような気がするし、
対照的な日本人の顔的な素朴な音のフルレンジユニットは、やはりダイヤトーンのP610ということになる。