賞からの離脱(その25)
ステレオサウンド 43号のベストバイ・コンポーネントの特集では、
選者2人以上のモノについては、それぞれの選者によるコメントがついている。
140字程度のコメントである(twitterとほぼ同じ文字数)。
ひとつひとつはそれほど長くはなくとも、
その本数はけっこうな数にのぼり、読みごたえは充分にある。
それらのコメントをすべて読んだ後で、
もう一度特集冒頭の「私はベストバイをこう考える」を読み返せば、
そこに書かれていることを、最初に読んだ時よりも理解できたように感じたものだ。
ベストバイ・コンポーネントをどう考え、どう選んだか、
その具体的な答が、それぞれの選者によるベストバイ・コンポーネントとそのコメントであるからだ。
井上先生は「私はベストバイをこう考える」に書かれているように、
あえて高価なモノは選ばれていない。
井上先生と対照的にみえるのは菅野先生といえよう。
菅野先生は「私はベストバイをこう考える」の冒頭に書かれている。
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ベスト・バイは、一般的な邦訳ではお買得ということになる。言葉の意味はその通りなのだが、ニュアンスとしては、ここでの、この言葉の使われ方とは違いがある。日本語のお買得という言葉には、どこかいじましさがあって気に入らない。これは私だけだろうか。そこで、ベスト・バイを直訳に近い形で言ってみることにした。〝最上の買物〟である。これだと、意味は意図を伝えるようだ。つまり、ここでいうベスト・バイとは、その金額よりも、価値に重きをおいている。
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たしかに菅野先生は、そうとうに高価なモノも選ばれている。
スピーカーシステムでは、シーメンスのオイロダインがもっとも高価(1本140万円)なのだが、
菅野先生は、上杉先生、山中先生ともにオイロダインをベストバイ・コンポーネントとして選ばれている。
その意味で菅野先生と井上先生は、ベストバイ・コンポーネントの選び方は対照的といえようが、
じつのところ、対照的ではなく対称的である(もしくは対称的なところもある)のではないだろうか。