Archive for 7月, 2015

Date: 7月 4th, 2015
Cate: モニタースピーカー

モニタースピーカー論(APM8とAPM6・その7)

実際に試したわけではないが、テクニクスのSB-M1から把手を外して、
レベルコントロールの凹みを良質の自然素材(たとえばウール)で埋める。

これだけで聴感上のS/N比はそうとうに高くなるはずだ。
凹み部分からの不要輻射を吸音し、把手部分の共鳴もなくしてしまえるからだ。
この手の実験はステレオサウンドの試聴室でかなりやってきた。
だから確実に、そうなると断言できる。

聴感上のS/N比が高くなることは、多くの人の耳が認めることだろう。
けれど、その音をいいと判断するかどうかは、また違ってくる。

聴感上のS/N比は確実に良くなっているのだから、
音は良くなっている──、とはいえる。
それでもメーカーは、把手込み、レベルコントロールの凹み込みで音を追い込んでいたのであれば、
聴感上のS/N比が高くなったかわりとして、音のバランスが若干変化するし、
音のアクセントといえるものがなくなり、印象としてもの足りなさをおぼえてしまうことも考えられる。

いわゆるノイズも音のうち、ということだ。

この点が、SB-M1とAPM6の大きな違いである。
スピーカーシステムにおける聴感上のS/N比の向上は、
SB-M1、APM6登場以降のスピーカーにおける潮流となっていく。

この視点からみれば、
SB-M1は1970年代までのスピーカーシステムのひとつとしての登場であり、
APM6は1980年代のスピーカーシステムのはじまりとしての登場といえる。

同じエスプリのAPM8は、SB-M1と同じといえる。

Date: 7月 4th, 2015
Cate: 新製品

新製品(その14)

あのころは新製品が出るたびに、かなりわくわくしていた。
まだ学生で自由になるお金はほとんどなかった。
それでも目標だけは大きかった。

社会人になれば、そう遠くないうちに買えると思っていたからだし、
実際に当時憧れていたオーディオ機器は、頑張れば買えない価格ではなかった。

ステレオサウンドの新製品紹介のページを読んでは、
目標が少し変ったり、また元に戻ったりということがあった。

そんなふうに読んできた申請非紹介のページだったが、
いつのころからか、こちらの読み方が変ってきた。

変ってきた理由のひとつには、ステレオサウンドで働いていたことも関係している。
でもそれだけではない。

すべての新製品をそういう視点で見ているわけではないが、
いわゆる話題の新製品、そのブランドのトップクラスの新製品、
それから超高額といえる新製品が出た時には、
これらはいったい何年使えるのだろうか、とふと思ってしまうようになっていた。

スピーカーシステムで、ペアで一千万円前後するモノがある。
そういったスピーカーが、仮にいい音を聴かせてくれたとしよう。
けれど、それはいったい何年使えるのか。

ここで使えるのか、という意味は、
新製品として登場した時点での最先端にあったであろう音は、
数年後には最先端ではなくなっていることが多い。
それは仕方のないことなのだが、毎日、そのスピーカーで音を聴いてきて、
10年、20年、30年……と使っていけるのだろうか、という意味でだ。

この新製品のモノとしての「耐久性」はいったいどの程度なのか。
このことを、高額なオーディオ機器に対しては冷静に判断するようになっていた。

Date: 7月 3rd, 2015
Cate: 試聴/試聴曲/試聴ディスク

ブラインドフォールドテスト(その2)

2ちゃんねるのステレオサウンドのスレッドでリンクされていた個人のサイトには、
ステレオサウンドは172号で初めてブラインドフォールドテストを行った、と書いてあった。

172号のアンプの試聴が、ステレオサウンド初めてのブラインドフォールドテストではない。
それ以前にも数回行ってきている。
調べればすぐにわかることなのに、調べもせずに書く。

その1)で書いた、
172号のブラインドフォールドテストに参加しなかったから小野寺弘滋氏は信用できないという人、
この人も調べればすぐに分ることなのに調べもせずに書いている。

このふたりが同じ人なのか違う人なのか、
2ちゃんねるは匿名の掲示板だからわからない。
おそらく違う人だろうが、
ブラインドフォールドテストが絶対で、
ブラインドフォールドテスト以外の試聴は信用できない、と主張する人たちの中に、
このふたりのような人がいるのだろうか、と思ってしまう。

わずかなサンプルだから、
ブラインドフォールドテストを支持する人、もっといえば絶対視している人が、
すべてそうだとはいえないことはわかっている。

けれどブラインドフォールドテストにはブラインドフォールドテストゆえの問題点もあり、
通常の試聴(オープンテスト)よりも、その結果が信頼できるわけではない決してない。

ブラインドフォールドテストは、何をテストしているのか、誰をテストしているのか、
この点が曖昧になってしまう。

Date: 7月 3rd, 2015
Cate: 瀬川冬樹

バターのサンドイッチが語ること、考えさせること(その2)

瀬川先生がバターのサンドイッチをつくられていたころといまとでは、
入手できるバターの数はそうとうに多くなっているであろう。

高級食材を扱うスーパーもいくつかあるし、
インターネットでの通販もある。
バターの選択肢は、どの程度かはわからないけれど、確実に増えている。

瀬川先生が生きておられたころ、
いまのようにオーディオ・アクセサリーはそれほど登場していなかった。
ケーブルにしても、こんなにもメーカーの数が増え種類も増えるとは思えなかったし、
その他のアクセサリーに関してもそうだった。

いまアクセサリーの選択肢は相当に増えている。
そのこと自体はけっこうなことといえるだろう。

選択肢が増えたことで、
オーディオの想像力の欠如が少しずつ浮び上ってきているように感じてもいる。

Date: 7月 3rd, 2015
Cate: オーディオの「美」

美事であること(50年・その1)

50年を半世紀ともいう。
私も半世紀ちょっと生きている。

ステレオサウンドも来年秋、50年(半世紀)を迎える。
このことはステレオサウンドが創刊されたころ、
すでに世の中に登場していたオーディオ機器も半世紀を迎えるということでもある。

例えばマランツのコントロールアンプ、Model 7も登場して50年以上経っている。
いまもModel 7で聴いている人は少なからずいる。

いまもコンディションのいいModel 7は高値で取り引きされている。
高値で取り引きされているからコンディションがいいわけでは決してないのだが、
そういうコンディションのModel 7も高値がついていたりする。

50年(半世紀)経っているわけだから、
新品を購入し、どれだけ大事に使ってきたとしても、メンテナンスは必要である。
どんなメンテナンスを施されてきたのかでも、コンディションは変ってくる。

いま現在、どれだけきちんとしたコンディションのModel 7があるのか、
はっきりとしたことはわからないけれど、
そういう状態にあるModel 7が、その語、登場した数多くのコントロールアンプよりも、
優れているところを持っているからこそ、いまも愛用する人がいるわけだ。

つまりModel 7は50年生き残っている。
Model 7だけではない、他にも50年生き残っているオーディオ機器がある。

Date: 7月 2nd, 2015
Cate: 老い

老いとオーディオ(余談・その6)

ウエスギ・アンプのU·BROS3とマイケルソン&オースチンのTVA1で、
女性ヴォーカルを聴いたとする。
どちらのKT88プッシュプルアンプが、情感をこめて鳴るだろうか。

この項の(その1)で引用した上杉先生の発言のように鳴ってくれるだろうか。

私は、この対照的なふたつのKT88プッシュプルアンプを最初に聴いたときは、
TVA1の方が、より情感のこもった歌が、そこで鳴ってくれる、聴けると感じていた。

だから疑問のようなものを感じていた。

上杉先生は、ステレオサウンド 60号で、
《恐らく歌手があなたにほれているという歌を歌うとすると、それは全身ほれているような感じにならないといかんと思うんです。全身ほれるということになれば、もっと極端なことを言うと、女性自身に愛液がみなぎって歌うときがこれは絶対やと思います。そういう感じで鳴るんですよ》
といわれているのは、
おそらく自宅でマッキントッシュのXRT20をご自身のアンプ、
つまりウエスギ・アンプで鳴らされた場合の音について語られているのだから、
上杉先生にとっては、ウエスギ・アンプは、つまりはそういう音で鳴ってくれるわけだ。

だが、私にはTVA1の方がそういう音で鳴ってくれるように感じていた。
いま思うと、そのときの私は若かった。
恋愛の、男女関係のくさぐさな経験があったわけではなかった。

そんな「若い」聴き手の耳にはTVA1の方が、よりそう聴こえた面もあることに、
いまは気づいている。

そのことに気づかさせてくれたのは、
グラシェラ・スサーナの歌う「抱きしめて」だった。

Date: 7月 1st, 2015
Cate: 老い

老いとオーディオ(余談・その5)

ウエスギのU·BROS3とマイケルソン&オースチンのTVA1は、
KT88のプッシュプルアンプということで比較しがちだが、
確かにこのふたつのKT88のプッシュプルアンプは比較してみることが興味深い。

シャーシーは、TVA1はクロームメッキ、U·BROS3はアイボリーといったらいいのか、塗装仕上げである。
そのシャーシーの上にトランス、真空管が配置されるわけだが、
その配置もU·BROS3は四本のKT88を前面に横一列に並べている。
KT88の後方に電源トランスと出力トランスが、これまた横一列に並んでいる。
電圧増幅管はトランスの後に控えている。

TVA1は出力トランスと電源トランスをシャーシーの両端に振り分けている。
真空管はシャーシー中央に集められている。
手前から電圧増幅管、出力管と縦二列で並ぶ。

入出力端子も配置も対照的だ。
U·BROS3ではシャーシー後部にある。シャーシー前部にあるのは電源スイッチ。
TVA1ではシャーシー前部に電源スイッチの他に入出力端子を配置している。

U·BROS3は左右対称に整然と主要パーツを配置している。
TVA1は電源トランスを左右独立させ二電源トランスであったならば、ほぼ左右対称のコンストラクションとなるが、
電源トランスはひとつで、そこには電源の平滑コンデンサーが二本立っている。
二列の真空管も、よく見ると出力トランス側にやや寄っている。

出力トランス(二つ)と電源トランス(一つ)、
計三つのトランスが使われているのはU·BROS3もTVA1も同じだが、
U·BROS3はラックス製のケースにおさめられたトランス、
TVA1は巻線のところにクロームメッキのカバーをつけただけで、コアは露出したまま。

こういった外観の違い以上に内部の配線は、もっと対照的といえる。