Archive for 7月, 2011

Date: 7月 2nd, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その15)

トーレンスがひとつのモデルを開発するのにどれだけの期間をかけているのかはわからない。
それでも、日本のメーカーと較べるとゆっくりしている、と思われる。
そしてTD226は、おそらくリファレンスが完成する前から開発が始まったのではなかろうか。
トーレンスのプレーヤーに搭載されるモーターの変遷をみていくと、そう思えてしまう。

TD126は、TD125のモーターのトルクに小ささによる使い勝手の悪さの反省からモーターを変更したものの、
リファレンスの完成によって得られた成果から、シンクロナス型に戻っていった。
その後、トーレンスから登場しているプレーヤーのモーターにDC型が採用されることはなくなった。

トーレンスはリファレンスの開発によって、
ベルトドライヴに関しては低トルクモーターの音質的な優位性をはっきりとつかんでいた、と考えていいだろう。

トーレンスは1883年の創立だ。
最初はオルゴールの製造からはじまり、1928年に電蓄をつくりはじめ、
1930年に電気式のレコードプレーヤーを発表している。

いまでも、一部のオーディオマニアから高い評価を得て、
現役のプレーヤーとして愛用されているTD124の登場は1957年。
TD124はいうまでもなく、ベルトとアイドラーの組合せによってターンテーブルを廻す。

その後、トーレンスはベルトドライヴだけに絞って製品を開発するが、
最初のベルトドライヴ・プレーヤーのTD150は、1964年もしくは65年に登場している。

リファレンスは1980年に登場しているから、
トーレンス最初の電気式プレーヤーから50年、TD124から23年、TD150から16年(もしくは15年)、
これだけの時間をかけて、トーレンスは低トルク・モーターという答えを出している。

Date: 7月 1st, 2011
Cate: アナログディスク再生

私にとってアナログディスク再生とは(その14)

そういえばトーレンスは、TD125もモーターのトルクがかなり弱かった。
ターンテーブルの起動には時間がかかっていた、と記憶している。
といっても、私がTD125の動作しているところを見て、音を聴くことができたのは一度きりなのだが。

TD125のモーターは16極シンクロナス型だったのが、後継機のTD126では78極DCモーターになっている。
曖昧な記憶の上で比較だから、なんの参考にもならないだろうが、
TD125よりもTD126のほうがモーターのトルクは強かったようにも思う。

TD125とTD126を比較試聴したことはない。同じ場所・条件で聴いたこともない。
だからこれもまったくあてにならないことになってしまうが、TD125のほうが音は安定していて、
余韻の美しさが耳に残る、そんな印象を持っている。

リンのLP12にヴァルハラをつけたときも、つけないときよりも余韻が美しさがあった。
そしてベルトを外して聴いたとき、さらに余韻の美しさがきわ立つ。

TD126はリファレンスの約1年半ほど前に登場している。
リファレンスのあと(1981年)に登場したTD226はTD126のダブルアーム版ともいえるもので、
モーターはTD126と同じ72極DC型。

1983年に登場した小型のプレーヤーシステム、TD147では、TD126と同じ16極シンクロナス型に戻っている。
1987年のTD520(アームレスのTD521)も、16極シンクロナス型である。。
TD520はロングアーム対応であり、レギュラーサイズのトーンアーム用のTD320(TD321)も、
16極シンクロナス型である。
さらにTD520、TD320では、カタログで小トルク・モーターということを謳っているのに気づく。

Date: 7月 1st, 2011
Cate: サイズ, 冗長性

サイズ考(その71)

オーディオ機器にとっての冗長性は、
音を良くするためのものであり、オーディオ機器としての性能性を高めていくことに関係している。

けれどこういった、オーディオ的な冗長性が性能向上の妨げとなるのが、コンピューターの世界のような気がする。
コンピューターの処理速度を向上させるために、CPUをはじめて周辺回路の動作周波数は高くなる一方。

私が最初に使ったMac(Classic II)のCPUのクロック周波数は16MHz。
いま使っているiMacは3.06GHz。
CPUの構造も大きく変化しているから、単純なクロック周波数の比較だけでは語れないことだが、
もしClassic IIに搭載されていたモトローラ製のCPU、68030の設計のままでは、
いまのクロック周波数は実現できない。
68030ではヒートシンクが取りつけられることはなかったが、
次に登場した68040にはヒートシンクがあたりまえになっていた。

68040はMacに搭載されたかぎりでは、40MHzどまりだった(内部は80MHz動作)。
68030と68040はコプロセッサーを内蔵しているか否かの違いもあり集積度もかなり異る。
そのへんのことをふくめると、厳密な喩えとはいえないことはわかっているが、
68040までは、冗長性を減らすことをあまり考慮せずに最大出力を増やしていったアンプのようにも思える。

コンピューターの世界は、冗長性をそのまま残していては、速度向上は望めない。
CPUの進歩はクロック周波数をあげながらも、消費電力はそれに比例しているわけではない。
冗長性をなくしてきているからこそ、いまの飛躍的な性能向上がある。

電子1個を制御できるようになれば、コンピューターの処理速度はさらに向上する。
そうなったとき冗長性は、コンピューターの世界からはほとんど無くなってしまうのかもしれない。

冗長性を排除していくコンピューターの世界と、
冗長性がまだまだ残り続けているオーディオの世界が、これから先、どう融合していくのか。

Date: 7月 1st, 2011
Cate: PM510, Rogers, 瀬川冬樹, 瀬川冬樹氏のこと

瀬川冬樹氏のこと(ロジャース PM510・その3)

ステレオサウンド 56号、レコード芸術11月号(1980年)のころ、
瀬川先生は世田谷・砧にお住まいだった(成城と書いている人がいるが、砧が正しい)。

その砧のリスニングルームには、メインのJBL4343のほかに、
瀬川先生が「宝物」とされていたKEFのLS5/1A以外にもイギリスのスピーカーシステムはいくつかあった。
スペンドールのBCII、セレッションのディットン66、ロジャースのLS3/5A、
写真には写っていないが、ステレオサウンド 54号ではKEFの105を所有されていると発言されている。

それにスピーカーユニットではあるが、グッドマンのAXIOM80も。
イギリス製ではないけれどもドイツ・ヴィソニックのスピーカーシステムも所有されていた。

これらのスピーカーシステムを鳴らすときに、どのアンプを接がれて鳴らされたのか。
ステレオサウンド別冊「続コンポーネントステレオのすすめ」に掲載されているリスニングルームの写真では、
アンプ関係は、マークレビンソン、SAE・Mark2500、アキュフェーズC240、スチューダーA68がみえる。

アナログプレーヤーは、EMTの930stと927Dst、それにマイクロのRX5000+RY5500。
アナログプレーヤーは、マイクロがメインとなっていたのか。

ステレオサウンド 56号、レコード芸術11月号を読んでいると、そんなことを思ってしまう。
もうEMTのプレーヤーもスチューダーのパワーアンプも、もう出番は少なくなっていたのか、と。

ロジャースのPM510は、EMTの魅力を、ヨーロッパ製のアンプの良さを、
瀬川先生に再発見・再認識させる何かを持っていた、といえまいか。

聴感上の歪の少なさ、混濁感のなさ、解像力や聴感上のS/N比の高さ、といったことでは、
EMTでは927Dstでも、マイクロの糸ドライヴを入念に調整した音には及ばなかったのかもしれない。
アンプに関しては、アメリカ製の物量を惜しみなく投入したアンプだけが聴かせてくれる世界と較べると、
ヨーロッパ製のアンプの世界は、こじんまりしているといえる。

そういう意味では開発年代の古さや投入された物量の違いが、はっきりと音に現れていることにもなるが、
そのことはすべてがネガティヴな方向にのみ作用するわけでは決してなく、
贅を尽くしただけでは得られない世界を提示してくれる。

なにもマークレビンソンをはじめとする、アメリカのアンプ群が、
贅を尽くしただけで意を尽くしていない、と言いたいわけではない。
中には意を尽くしきっていない製品もあるが、意の尽くした方に、ありきたりの表現になってしまうが、
文化の違いがあり、そのことは音・響きのバックボーンとして存在している。