Archive for category 選択

Date: 6月 6th, 2010
Cate: 選択

オーディオ機器を選ぶということ(その5)

田中一光先生のハークネスは、システムナンバー001だから、ウーファーは130A、ドライバーは175DLHの組合せ。
エンクロージュアはC40。だからスピーカーシステムナンバーはD40001となる。

エンクロージュアはバックロードホーンの、高能率、いまではナローレンジ型となる。
ハークネスから、私の求めている音を抽き出すのは、そうとうに困難だとわかっていても、
Harkness は、いまでも欲しいスピーカーシステムの、数少ないひとつだ。

だからといって、状態のいいモノが目の前に合ったとして、それを購入できるお金が手もとにあったとしても、
じゃ、即購入するのかというと、そうじゃない。

私の中では、ハークネスは、田中一光先生の、あのリスニングルームと、あくまでもひとつのセットであるから。
リスニングルーム全体、とはいわない。
でも、あの机と椅子は、どうしてもひとつのセットとして、決して分離できないものだ。

スピーカーの間の机と椅子を置くことによる音への影響よりも、あのとき感じた美しさをとる。
これは、「憧れ」だ。ずっともちつづけてきた。

Date: 6月 5th, 2010
Cate: 選択

オーディオ機器を選ぶということ(その4)

ステレオサウンド 45号に載っている田中一光先生のリスニングルーム。
五味先生のタンノイ・オートグラフに憧れるのは、別の意味で、一目見た瞬間から、「憧れ」となった。

スピーカーシステムは、JBLのハークネス。
木目を生し、部屋全体の色調も茶色、それにカーペットの白という暖かい雰囲気にまとめられていて、
それでいてすっきりとしていた。

ハークネスのあいだには、同じ高さになるようにつくられた木製の机。
一分の隙もなく、ぴったりと収まっている。
椅子は、ハンス・ウェグナーのモノ。これもハークネスと机、それに部屋の雰囲気によく合っている。
ちなみにソファーは、アルフレックスのDECA、テーブルはエアボーン。

しかもハークネスは、左右対称の環境にレイアウトされている。

45号は1977年12月発行。このとき、私は14歳。
正直、「田中一光? どんな人だろう……」だった。
作品についても、まったく知らなかった。
それでも、このリスニングルームを見れば、すごいデザイナーであることは、即座にわかった。
14歳の若造(小僧)にもわかるくらいの、見事なリスニングルームだった。

Date: 3月 19th, 2010
Cate: 選択

オーディオ機器を選ぶということ(その3)

「四季感覚」があれば「共時性」もあるだろう、オーディオの選択においては。

録音とともに、時代の音、というものが、やはりある。
技術の進歩によって、可能になってきた音の表情がある以上、
それに見合った、新しいスピーカーシステムで聴くことが最善の方法であると思いがちだが、
そうでないところに、オーディオの難しさ(面白さ)がひそんでいるし、
スピーカーシステムの選択において、柔軟性が求められるのも、そのためであろう。

誰しも古ぼけた音では、聴きたくないはずだ。
とくに永年聴き続けてきた愛聴盤であれば、つねに新鮮な気持で聴いていきたい。

そうなると古いスピーカーシステムは用無しとなるかといえば、
古いスピーカーシステムが、古ぼけた音を出す、とは、かならずしもいえない。

状態がすぐれていれば、古いスピーカーシステムのなかには、
新しいアンプや周辺機器との組合せによって、共時性を感じさせてくれるモノ、
いいかえれば古ぼけないスピーカーシステムがある。

そこに、共時性との共鳴がおこる。

Date: 2月 6th, 2010
Cate: 選択

オーディオ機器との出逢い(その2)

これは、もう出逢いだ、と、金色のフロントパネルをみた瞬間に思い込んでしまったわけだ。
そういうときには、後先考えずに手に入れるしかない。
それが、オーディオマニアにとっての出逢いなのだから。

「出逢い」について急に書く気になったのは、いましがた早瀬さんから電話があったことも関係している。
京都からこちらにもどってきて、これから、JBLのSA600に電源を入れるとのことだった。

SA600はアーノルド・ウォルフの傑作だと思う。
ウォルフが、JBLでデザインしたものは、ベル・エアーが最初の製品で、
SG520、SE400Sなどの一連のソリッドステートアンプたち、有名なパラゴンがある。
それに初期のスタジオモニターの4310と4320がある。

同じ4300シリーズでも、4320と4343とでは、ずいぶん趣が異る。
4343もウォルフのデザインのように語られることがあるが、やはりこのへんのデザインは、ここにも書いたように、ダグラス・ワーナーで間違いないはずだ。

おそらく4350からはじまったブルーバッフルも、ワーナーの発案だろう。

いま早瀬さんが愛用している4333は、4320と同じエンクロージュアのつくりと仕上げである。
つまりウォルフ・デザインのスピーカーだ。それを極上のSA600で早瀬さんは鳴らしている。

このふたつのウォルフ・デザインのJBLを手に入れるいきさつは、早瀬さんからきいている。
このふたつは、出逢うべくして、いま早瀬さんの手もとにある、といっていいだろう。

Date: 2月 6th, 2010
Cate: 選択

オーディオ機器との出逢い(その1)

もう20年以上昔のある日、急にSUMOのThe Goldが欲しくなったときがあった。
それまではスレッショルドの800AやマークレビンソンのML2が、
ソリッドステートアンプのなかで、もっとも欲しいアンプであったのに、
その2機種とは、かなり性格もつくりにも、違う面を見せるThe Goldこそ、
不思議なことに理想のアンプのように思えてきた。

そうなると手に入れたくなるのだが、もともとそれほど輸入されたものでもないし、
故障率200%はいわれていたぐらいだから、
完動品となるとそうそう簡単には見つからないだろうことぐらいはわかっていたが、
それでも、ある日、仕事中に、なぜだか秋葉原に行けば、そこにあるような予感がして、
たまたまそれほど忙しくないという日だったこともあり、抜け出した。

驚いたのは、ほんとうに、そこにThe Goldがあったこと。GASのThaedraもあった。
ふたつとも手に入れたかったが、さすがにそれはふところがゆるしてくれなくて、
The Goldのみを購入した。
それでも、2つほど手持ちのオーディオ機器を処分している。

Date: 12月 29th, 2009
Cate: 選択

オーディオ機器を選ぶということ(その2)

天秤の計量皿の一方には「偶然」、他方には「必然」も乗っていよう。

川崎先生は、「四季感覚」が日本人のバランス感覚を育んでいる、と書かれている。
井上先生は、季節感を大事にしろ、とことあるごとに言われていた。

日本人として、日本で暮らしていくなかで、オーディオ機器を選ぶということは、
四季を感じとりながらの行為であろう。

Date: 1月 27th, 2009
Cate: 選択

オーディオ機器を選ぶということ(その1)

天秤の左右の計量皿の上に何が乗っているのか。

一方は「知」、他方には「情」か。
いつの時代も、つねにバランスがとれているわけじゃない。
10代、20代前半のときは、どちらに大きく傾くことも多いような気もする。
齢を重ねることで、「知」も「情」もともに大きくなり、
徐々にではあるが、左右どちからに大きく傾くことは少なくなり、
ブレもなくなることが、人としての成長なのだろうか。

はたまた片方には「憧れ」が、他方には「必要」が乗っているのかもしれない。
「憧れ」が必ずしも、心が真に求めるものではないことは多い。
心に惑わされるのか、心が惑わされるのか、は、わからない。

別の棒に吊り下げられている皿には、「正統」と「異端」が、というように、
その人の内にある天秤には、ひとつの棒と左右ふたつの皿だけではなく、
いくつもの棒が乗っており、それぞれの皿には、なにがしかが乗っている。

齢とともに棒が増えていくのか、それとも外していけるのか。

人間関係やその人の周りを取り囲む、いくつもの情勢によっても天秤は、
時に大きく揺れることもあるだろう。

そんな揺れを完全に無視して、オーディオ機器を選択できる人がいようか。
仮に、そんな人がいたとして、その人と、オーディオの何を、どう語れるというのだろうか。

天秤の揺れのなかで、
心底、惚れ込めるオーディオ機器(これは、もうスピーカーと言い換えてもいいだろう)と出合えるまで、
経済状況が許すなら、そう場合によってはそれすらも無視して買い替えていくことを、
まわりの誰も、とやかく言うことはできない。そうではないのか。

肝心なのは支点がブレないことだ。

オーディオ機器を頻繁に買い替える人に対し、眉を顰める人、批判的な口調の人がいる。
否定的でなくとも、「変るのが、あの人の個性だ」と捉えるかもしれない。

実は変っていない。支点がしっかりしているから、ただ揺れているだけなのを見て、
人は「変っていく」と捉えるだけではないのか。