Archive for category 進歩・進化

Date: 9月 23rd, 2015
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その7)

発熱の問題はオーディオにとっては、けっこうやっかいな問題である。
なにもアンプに限った話ではない。
スピーカーにとっても熱を発することは問題であり、
その熱をどう処理するかはスピーカーの基本的な性能に関わってくる。

いうまでもなくスピーカーユニットのボイスコイルは金属である。
アルミニウムか銅が使われている。

電流が多く流れれば、どんな金属であれ熱をもつ。
熱をもてば金属の内部抵抗は大きくなる。
内部抵抗が大きくなれば、発熱もまた増えていく。つまり悪循環に陥る。

そうなってくると音量を上げようとして、
スピーカーにどれだけパワーを送ったとしても熱へと変換されていくパワーが増えていくだけで、
リニアリティが悪くなっていく。

つまりボイスコイルがもつ熱をどう処理していくのか。
この部分がうまく設計されていないユニットだと、
どんなに耐入力が高くとも最大音圧レベルは理屈どおりにはいかない。

JBLを離れたバート・ロカンシーを中心として1970年代終りに設立されたガウス。
当時、ウェストレックス(ウェストレークではない)のシステムに採用されたユニットでもあった。
無線と実験の記事で、このことを知って、
JBLよりもすごいユニットが登場したのか、と思ったほどだ。

ガウスのフルレンジ、ウーファーといったコーン型ユニット、
ホーン型トゥイーターは、ユニット後部がヒートシンク状になっていた。

それからイギリスのPMCの独特の形状のウーファー。
通常フレームはユニットの後部(裏側)にあるものが、
振動板の前面(ユニットの前面)にフレームをもっている。

見た目も独特なこの形状は、フレームを放熱器としてとらえれば、
エンクロージュア内に置くよりもエンクロージュアの外にもってきたほうが、
とうぜん放熱効果は高くなるというメリットがある(もちろんデメリットもあるけれど)。

それにボイスコイルの熱はボイスコイルだけではなく、マグネットにも影響を与えてる。
ネオジウムマグネットを採用したJBLのS9500のウーファー1400Ndでは、
熱による悪影響から逃れるために磁気回路の一部を削りとるという、独自の放熱機構をもっている。

ボイスコイルの抵抗を完全に0にできて、しかもどんな状況下でも0を維持できるのであれば、
変換効率の低さは、パワーアンプの出力の増大によって、かなりの部分補えるとしても、
現実にはそういう素材は登場していない。

ガウス、PMC、JBLのそれぞれの手法にしても、完全な解決法とはいえない。
パワーアンプの場合、発熱体である出力トランジスターはヒートシンクに取りつけられている。
けれどスピーカーの発熱体であるボイスコイルは、つねに動いているため、そういうわけにはいかないからだ。

Date: 2月 8th, 2015
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その6)

スピーカーの変換効率は、相当に低い。
93dB/W/mで1%の変換効率である。
30数年前は93dB/W/mは高能率ではなかった。
標準的もしくはフロアー型で、この値ならばやや低めの値という認識だった。

それがいまでは90dB/W/mでも能率が高いようにいわれるくらいに、
スピーカーの変換効率は低くなっている。

低くなっている、ということは、悪くなっている、ということである。
確実に悪くなっている。

けれど、そのことを問題とする人はあまりいないように見受けられる。
パワーアンプの出力が十分にあるのだから、
スピーカーの変換効率は低くてもかまわない、ということのようだ。

だがスピーカーに入力された信号の多くは、音にならずにどこへ行くのか。
93dB/W/mで1%なのだから、99%の信号はどうなるのか。
93dBより低いスピーカーならば、99%以上の信号が熱になってしまう。

その熱を発するのはボイスコイルであり、
ボイスコイルはエンクロージュアによって隠されているし、
さらに磁気回路によって覆われているから、直接見ることはないしさわることもない。

ゆえにボイスコイルの熱を使い手が認識することはほとんどない。
けれど低能率のスピーカーてあればあるほど、ボイスコイルが発する熱量は多くなる。
ボイスコイルの温度が上昇する。

Date: 10月 24th, 2014
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その5)

現代のスピーカーシステムと古き良き時代のスピーカーシステムと比較して、
古き良き時代のスピーカーシステムがはっきりと優っていることがある。
能率である。変換効率という能率である。

古き良き時代のスピーカーシステムを鳴らす当時のアンプは、今の基準からすればすべて小出力アンプとなる。
マッキントッシュのMC275の75W+75Wが大出力と呼ばれていたし、
MC275ですら1962年に発売されているのだから、
それ以前、モノーラル時代まで遡れば、MC275の半分以下の出力でも大出力であった。

だから古き良き時代のスピーカーシステムの能率は高く、出力音圧レベルは100dB/W/mが珍しくなかった。
とにかく高能率であることが、まずスピーカーには求められていたからだ。

そのこともあってか、いまでは高能率のスピーカーは古いスピーカーであり、
性能的に劣っているスピーカーということになっている。

けれどスピーカーは電気信号を音に変換する変換器であり、
変換器である以上、変換効率もまた重要な性能のひとつである。
ならば、高能率のスピーカーは、この点において高性能のスピーカーということになる。

にも関わらず、いまではアンプの出力がほぼ無制限に得られる感覚があるため、
高能率であることは、どうでもいいことのように扱われつつある。
特に現代のスピーカーシステムを使っている人の多くは、
出力音圧レベルという項目はさほど気にしていないようだ。

この項の(その4)で、
技術の進歩は拡張といいかえたほうがしっくりくる、と書いた。
ならばとにかく高能率であることを目指したスピーカーを古いといって切って捨てることもできるけれど、
古き良き時代のスピーカーは、集中というアプローチがとられたモノとして認識すべきではないのか。

新しい/古い、ではなく、拡張/集中なのではないか。

Date: 9月 11th, 2013
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その4)

現在市場に出廻っているスピーカーシステムで世評の高いモノすべてとはいわないが、
多くのスピーカーシステムの物理特性は、はっきりと向上している。

周波数特性については既に述べている。
見事というしかない周波数特性を実現しているスピーカーシステムも、もう珍しくなくなってきている。

周波数特性だけではなく、歪率も減ってきている。
サインウェーヴによる測定項目だけでなく、パルスによる測定項目においても特性の改善は著しい。

それだけそれまでの技術の集積があり、それをベースとした向上があるからこその、
物理特性の向上である。
ここまでの物理特性の向上は、オーディオを工業製品ととらえれば、はっきりと進歩であるわけだ。

これらのことは、別の言葉で表現すれば、リニアリティ(直線性)の向上である。

周波数特性は、あらゆる帯域の音に対してのリニアリティであり、
歪率にしても、どれだけ低歪にできるかはリニアリティを向上させていくことだし、
そのリニアリティの領域をどこまで(周波素的にも、レベル的にも、位相的にも、など)
のばしていくことができるか、ともいえる。

だとすれば、スピーカーシステムにおける物理特性の向上は、リニアリティの向上であり、
リニアリティの向上とはリニアリティの領域を拡げていくこと、
つまり、進歩は、拡張といいかえたほうが、しっくりくる。

Date: 9月 5th, 2013
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その3)

いいモノの絶対数が増えて、
毎年登場する、多くの新製品の数に対して、
いいモノが占める割合が以前よりもあきらかに高くなっていたとしても、
オーディオに関しては、進歩・進化ということばを使う際に、ためらいを感じてしまう。

スピーカーシステムにしても、昔と今とでは特性ひとつとってみても、ずいぶんと違う。
周波数特性をみても、はっきりと向上しているのがわかる。
これは、もう誰の目にもあきらかなことで、このことを否定する人はいない、と思う。

周波数特性は大型スピーカーが主流だったモノーラル時代からすれば、
低域・高域ともに伸びているし、
昔のスピーカーシステムはナロウレンジだったわけだが、
そのナロウレンジの帯域だけを比較してみても、現代の優れたスピーカーシステムは、
昔のスピーカーの周波数特性のグラフが手描き(それも拙い手描き)だとすれば、
現在の優秀なスピーカーの特性は、少々大袈裟にいえば定規を使ったかのように平坦に仕上っている。

このまま特性が向上していけば、スピーカーシステムの周波数特性は、
いまのアンプの周波数特性並になるのかもしれない──、
そんな予感さえ思うほどに精確な特性へと確実になっている。

ならば、もう古き良き時代のスピーカーシステムなんて用済みであり、
そんな時代のスピーカーシステムを欲しがる者は、懐古趣味の沼にどっぷりはまっているだけのこと。
いまや、スピーカーシステムも、すべてにおいて古き良き時代のスピーカーシステムを上回っている。

私だって、心の底からそういいたい。
だが、現実にはなかなかそうはいえない。
そういえる日が、あと10年くらいで訪れるのだろうか。

Date: 9月 3rd, 2013
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その2)

オーディオ機器は、基本工業製品である。
工業製品の質は、技術の向上にともない本来良くなっていくものである。

ステレオサウンドは1966年に創刊されている。
あと三年で創刊50年となる。

そんなステレオサウンドが創刊された当時は、
工業製品であるオーディオ機器は、まずいい製品を選ぶことから始まる、といわれていた。
ステレオサウンドが測定をやるようになったのも、
実はカタログ掲載のスペックがほんとうなのかどうかを確認する意味合いもあったし、
通り一遍の測定ではなく、
回を重ねるごとに独自の測定方法を考え出しもしていた。

そういう時代を経て、工業製品であるオーディオ機器はよくなっていった、といえるかもしれない。
こんな曖昧な表現をしたくなるのは、
ひどい製品、悪い製品がほとんどなくなったことは確固たる事実であるけれど、
ほんとうに優れたオーディオ機器、いいモノが少なくなっているように感じるからである。

ほんとうに優れたオーディオ機器、いいモノの絶対数は、
実のところ昔も今も、そう違ってきているわけではないのかもしれない。
この数に関しては、私のイメージの中での数でしかない。

でも、少なくなってきている、と感じてしまうのは、
毎年、新製品として登場するオーディオ機器の数が、昔と今ではかなり違ってきている。

たとえいいモノの絶対数が同じだとしても、
全体に占める割合は母数が大きいほど少なく感じしまう。

Date: 8月 26th, 2013
Cate: 進歩・進化

拡張と集中(その1)

技術の進歩という言い方をする。
時には、進化ともいうことがある。

私も、これらを使う。
使い(書き)ながら、ここで、進歩と使っていいのかと考えてしまうことはある。

技術は進歩しているように見える。
見えるだけでなく、確実に進歩しているのはわかっている。
それでもことオーディオに関しては、
こと音に関しては、本当に進歩しているのか判断が微妙なところがあるのもまた事実である。

となると安易に進歩といっていいのだろうかと思うし、
他の表現があるようにも思えてくる。
けれどぴったりとくる言葉を思いつかず、少し安易に進歩という言葉を使ってしまうことがある。

いったい、そういうときに、どういうことばを持ってくれば、
違和感を感じることなく、自分の安易さに気づきながら、それをごまかすことなく書けるのだろうか。