拡張と集中(その3)
いいモノの絶対数が増えて、
毎年登場する、多くの新製品の数に対して、
いいモノが占める割合が以前よりもあきらかに高くなっていたとしても、
オーディオに関しては、進歩・進化ということばを使う際に、ためらいを感じてしまう。
スピーカーシステムにしても、昔と今とでは特性ひとつとってみても、ずいぶんと違う。
周波数特性をみても、はっきりと向上しているのがわかる。
これは、もう誰の目にもあきらかなことで、このことを否定する人はいない、と思う。
周波数特性は大型スピーカーが主流だったモノーラル時代からすれば、
低域・高域ともに伸びているし、
昔のスピーカーシステムはナロウレンジだったわけだが、
そのナロウレンジの帯域だけを比較してみても、現代の優れたスピーカーシステムは、
昔のスピーカーの周波数特性のグラフが手描き(それも拙い手描き)だとすれば、
現在の優秀なスピーカーの特性は、少々大袈裟にいえば定規を使ったかのように平坦に仕上っている。
このまま特性が向上していけば、スピーカーシステムの周波数特性は、
いまのアンプの周波数特性並になるのかもしれない──、
そんな予感さえ思うほどに精確な特性へと確実になっている。
ならば、もう古き良き時代のスピーカーシステムなんて用済みであり、
そんな時代のスピーカーシステムを欲しがる者は、懐古趣味の沼にどっぷりはまっているだけのこと。
いまや、スピーカーシステムも、すべてにおいて古き良き時代のスピーカーシステムを上回っている。
私だって、心の底からそういいたい。
だが、現実にはなかなかそうはいえない。
そういえる日が、あと10年くらいで訪れるのだろうか。