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Date: 1月 10th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その18)

ステレオサウンド 44号は、41号から読みはじめた私にはやっと1年が経った号。
いまと違い、3ヵ月かけてじっくりステレオサウンドをすみずみ(それこそ広告を含めて)読んでいた。
実測データも、もっと大きな写真にしてくれれば細部までよく見えるのに……、
と思いながらも、じーっと眺めていた。

同じスピーカーシステムの周波数特性なのに、サインウェーヴで無響室での特性と、
ピンクノイズで残響室でスペクトラムアナライザーで測定した特性では、
こんな違うのか、と思うものがいくつかあった。
どちらも特性も似ているスピーカーシステムもあるが、それでも細部を比較すると違う傾向が見えてくる。

とはいうものも、このころはまだオーディオの知識もデータの読み方も未熟で、
データの違いは見ることで気がつくものの、それが意味するところを、どれほど読み取れていたのか……。
それでも、このトータルエネルギー・レスポンスは面白い測定だ、とは感じていた。

このトータルエネルギー・レスポンスについては、
瀬川先生もステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES-3(トゥイーター特集号)で触れられている。
     *
(トゥイーターの指向周波数特性についてふれながら)残響室を使ってトゥイーターのトータルの周波数対音響出力(パワーエナージィ・レスポンス)が測定できれば、トゥイーターの性格をいっそう細かく読みとることもできる。だが今回はいろいろな事情で、パワーエナージィは測定することができなかったのは少々残念だった。
ただし、指向周波数特性の30度のカーブは、パワーエナージィ・レスポンスに近似することが多いといわれる。
     *
サインウェーヴ・無響室での周波数特性よりも、
私がトータルエネルギー・レスポンスのほうをさらに重視するきっかけとなった実測データが、
ステレオサウンド 52号、53号で行われたアンプの測定データのなかにある。

Date: 1月 10th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その17)

ステレオサウンドは44号で、サインウェーヴではなくピンクノイズを使い、
無響室ではなく残響室での周波数特性を測定している。

44号での測定に関する長島先生の「測定の方法とその見方・読み方」によると、
36号、37号でもピンクノイズとスペクトラムアナライザーによる測定を行なっている、とある。
ただし36号、37号では無響室での測定である。
それを44号から残響室に変えている。
その理由について、長島先生が触れられている
     *
(残響室内での能率、リアル・エフィシェンシーについて)今回はなぜ残響室で測ったのか、そのことを少し説明しておきましょう。スピーカーシステムの音はユニットからだけ出ていると思われがちですが、実はそれだけではないのです。ユニットが振動すれば当然エンクロージュアも振動して、エンクロージュア全体から音が出ているわけです。そして実際にリスナーが聴いているスピーカーシステムの音は、スピーカーからダイレクトに放射された音、エンクロージュアから放射された音、場合によっては部屋の壁などが振動して、その壁から反射された音を聴いているわけです。
ところが一般的に能率というと、スピーカー正面、つまりフロントバッフルから放射される音しか測っていないわけです。これは無響室の性質からいっても当然のことなのですが、能率というからには、本来はスピーカーがだしているトータルエナジー──全体のエネルギーを測定した方が実情に近いだろうという考え方から、今回は残響室内で能率を測定して、リアル・エフィシェンシーとして表示しました。
(残響室内での周波数特性、トータルエネルギー・レスポンスについて)今回のように残響室内で周波数特性を測定したのは本誌では初めての試みです。従来の無響室内でのサインウェーブを音源にした周波数特性よりも、実際にスピーカーをリスニングルーム内で聴いたのに近い特性が得られるため、スピーカー本来の性格を知る上で非常に参考になると思います。
(中略)この項目も先ほどの能率と同様に残響室を使っているため、スピーカーシステムの持っているトータルエナジーがどのようなレスポンスになっているかが読み取れます。
     *
ステレオサウンドでの測定に使われた残響室は日本ビクター音響研究所のもので、
当時国内最大規模の残響室で、内容積280㎥、表面積198㎡、残響時間・約10秒というもので、
壁同士はだけでなく床と天井も平行面とならない形状をもっている。
ただ、これだけの広さをもっていても、波長の長い200hz以下の周波数では部屋の影響が出はじめ、
測定精度が低下してしまうため、
掲載されているデータ(スペクトラムアナライザーの画面を撮った写真)は、200Hz以下にはアミがかけられている。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その16)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4で、菅野先生は2115Aについて、こう語られている。
     *
オーケストラのトゥッティの分解能とか弦のしなやかさという点では、LE8Tに一歩譲らざるを得ないという感じです。ところがジャズを聴きますと、LE8Tのところでいった不満は解消されて、むしろコクのある脂の乗った、たくましいテナーサックスの響きが出てきます。ベースも少し重いけれど積極的によくうなる。そういう点で、この2115はLE8Tの美しさというものを少し殺しても、音のバイタリティに富んだ音を指向しているような感じです。
     *
瀬川先生は、こんなふうに、2115AとLE8Tの違いについて語られている。
     *
2115の方がいろいろな意味でダンピングがかかっていないので、それだけ能率も高くなり、いま菅野さんがいわれたような音の違いが出てきているんだと思うんです確かに。2115は緻密さは後退していますが、そのかわり無理に抑え込まない明るさ、あるいはきわどさすれすれのような音がしますね。どちらが好きかといわれれば、ぼくはやはりLE8Tの方が好ましいと思います。
(中略)そもそもJBLのLEシリーズというのは、能率はある程度抑えても特性をフラットにコントロールしようという発想から出てきたわけですから、よくいえば理知的ですがやや冷たい音なんです。ですからあまりエキサイトしないんですね。
     *
LE8Tは優秀なフルレンジユニットだということは実測データからも読みとれるし、試聴記からも伝わってくる。
D130はマキシマム・エフィシェンシー・シリーズで、LE8Tはリニア・エフィシェンシー・シリーズを、
それぞれ代表する存在である。
だからD130はとにかく変換効率の高さ、高感度ぶりを誇る。そのためその他の特性はやや犠牲にされている──、
おそらくこんな印象でD130はずっとみてこられたにちがいない。

たしかにそれを裏付けるかのようなHIGH-TECHNIC SERIES 4での実測データではあるが、
私が注目してほしいと思い、これから書こうとしているのは、
周波数・指向特性、高調波歪率ではなくトータルエネルギー・レスポンスである。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その15)

HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場しているJBLのユニットは、
LE8T(30000円)、D123-3(32000円)、2115A(36000円)、
D130(45000円)、2145(65000円)の5機種で、
2145は30cmコーン型ウーファーと5cmコーン型トゥイーターの組合せによる同軸型ユニットで、
いわゆる純粋なシングルボイスコイルのフルレンジユニットはLE8T、D123-3、2115A、D130であり、
これらすべてセンターキャップにアルミドームを採用している(価格はいずれも1979年当時のもの)。

LE8Tは20cm口径の白いコーン紙、D123-3は30cm口径でコルゲーション入りのコーン紙、
2115Aは20cm口径で黒いコーン紙、D130は38cm口径。
2115AはLE8Tのプロフェッショナル・ヴァージョンと呼べるもので、
コーン紙の色こそ異るものの、磁気回路、フレームの形状、それにカタログ上のスペックのいくつかなど、
共通点がいくつもある中で、能率はLE8Tが89dB/W/mなのに対し2115Aは92dB/W/mと、3dB高くなっている。
この3dBの違いの理由はコーン紙の色、
つまりLE8Tのコーン氏に塗布されているダンピング材によるものといって間違いない。

LE8Tはこのことが表しているように、全体に適度にダンピングを効かしている。
このことはHIGH-TECHNIC SERIES 4に掲載されている周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率からも伺える。
周波数・指向特性もLE8Tのほうがあきらかにうねりが少ないし、
高調波歪率もLE8Tはかなり優秀なユニットといえる。
高調波歪率のグラフをみていると、基本的な設計が同じスピーカーユニットとは思えないほど、
LE8Tと2115Aは、その分布が大きく異っている。

2115AにもD130と同じように5kHzあたりにアルミドームの共振によるピークががある。
D123-3にもやはり、そのピークは見られる。
さらにこのピークとともに、第2次高調波歪が急激に増しているところも、D130と共通している。
ところがLE8Tこの高調波歪も見事に抑えられている。

LE8Tのこういう特徴は、試聴記にもはっきりと出ている。

Date: 1月 9th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その14)

スピーカーユニット、それもコーン型ユニットの測定はスピーカーユニットだけでは行なえない。
なんらかの平面バッフルもしくはエンクロージュアにとりつけての測定となる。

IECでは平面バッフルを推奨していた(1970年代のことで現在については調べていない)。
縦1650mm、横1350mmでそれぞれの中心線の交点から横に150mm、上に225mm移動したところを中心として、
スピーカーユニットを取りつけるように指定されている。

日本ではJIS箱と呼ばれている密閉型エンクロージュアが用いられる。
このJIS箱は厚さ20mmのベニア板を用い、縦1240mm、横940mm、奥行540mm、
内容積600リットルのかなり大型のものである。

ステレオサウンド別冊HIGH-TRCHNIC SERIES 4で、後者のJIS箱にて測定されている。
IEC標準バッフルにしても、JIS箱にしても、
測定上理想とされている無限大バッフルと比較すると、
バッフル効果の、低域の十分に低いところまで作用しない点、
エンクロージュアやバッフルが有限であるために、ディフラクション(回折)による影響で、
周波数(振幅)特性にわずかとはいえ乱れ(うねり)が生じる。

無限大バッフルに取りつけた状態の理想的な特性、
つまりフラットな特性と比べると、JIS箱では200Hzあたりにゆるやかな山ができ、
500Hzあたりにこんどはゆるやかで小さな谷がてきる。
この山と谷は、範囲が小さくなり振幅も小さくなり、周期も短くなっていく。

IEC標準バッフルでは100Hzあたりにゆるやかな山ができ、400Hzあたりにごくちいさな谷と、
JIS箱にくらべると周期がやや長いのは、バッフルの面積が大きいためであろう。

どんなに大きくても有限のバッフルなりエンクロージュアにとりつけるかぎりは、
特性にもバッフル、エンクロージュアの影響が多少とはいえ出てくることになる。

ゆえに実測データの読み方として、複数の実測データに共通して出てくる傾向は、
いま述べたことに関係している可能性が高い、ということになる。

Date: 1月 7th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その13)

D130は厳密にはJBLの出発点とは呼びにくい。
実質的にはD130が出発点ともいえるわけだが、事実としてはD101が先にあるのだから、
D130はJBLの特異点なのかもしれない。

そのD130の実測データは、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に出ている。
無響室での周波数特性(0度、30度、60度の指向特性を併せて)と、
残響室でのピンクノイズとアナライザーによるトータルエネルギー・レスポンスがある。

このどちらの特性もお世辞にもワイドレンジとはいえない。
D130はアルミ製のセンターキャップの鳴りを利用しているため、
無響室での周波数特性では0度では1kHz以上ではそれ以下の帯域よりも数dB高い音圧となっている。
といってもそれほど高い周波数まで伸びているわけではなく、3kHzでディップがあり、その直後にピークがあり、
5kHz以上では急激にレスポンスが低下していく。
これは共振を利用して高域のレスポンスを伸ばしていることを表している。
周波数特性的には0度の特性よりも30度の特性のほうが、まだフラットと呼べるし、グラフの形も素直だ。

低域の特性も、38cm口径だがそれほど低いところまで伸びているわけではない。
100dBという高い音圧を実現しているのは200Hzあたりまでで、そこから下はゆるやかに減衰していく。
100Hzでは200Hzにくらべて約-4dB落ち、50Hzでの音圧は91dB程度になっている。
トータルエネルギー・レスポンスでも5kHz以上では急激にレスポンスが低下し、
フラットな帯域はごくわずかなことがわかる。

周波数特性的にはD130よりもずっと優秀なフルレンジユニットが、HIGH-TECHNIC SERIES 4には載っている。
HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するフルレンジユニットの中には、
アルテックの604-8GやタンノイのHPDシリーズのように、
同軸型2ウェイ(ウーファーとトゥイーターの2ボイスコイル)のものも含まれている。
それらを除くと、ボイスコイルがひとつだけのフルレンジユニットとしてはD130は非常に高価もモノである。
HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するボイスコイルひとつのユニットで最も高価なのは、
平面振動板の朋、SKW200の72000円であり、D130はそれに次ぐ45000円。このときLE8Tは30000円だった。

Date: 1月 7th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その12)

JBLのD130の息の長いスピーカーユニットだったから、
初期のD130と後期のD130とでは、
いくつかのこまかな変更が加えられ、音の変っていることは岩崎先生自身も語られている。
とはいえ、基本的な性格はおそらくずっと同じのはず。
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4(1979年)で試聴対象となったD130は、
いわば後期モデルと呼んでもいいだけの時間が、D130の登場から経っているものの、
試聴記を読めば、D130はD130のままであることは伝わってくる。

同程度のコンディションの、製造時期が大きく異るD130を直接比較試聴したら、
おそらくこれが同じD130なのかという違いは聴きとれるのかもしれない。
でも、D130を他のメーカーのスピーカーユニット、もしくはスピーカーシステムと比較試聴してしまえば、
D130の個性は強烈なものであり、いかなるほかのスピーカーユニット、スピーカーシステムとは違うこと、
そして同じJBLの他のコーン型ユニットと比較しても、D130はD130であることはいうまでもない。

そのD130は何度か書いているようにランシングがJBLを興したときの最初のスピーカーユニットではない。
D101という、アルテックのウーファー、515のフルレンジ版といえるのが最初であり、
これに対するアルテックにクレームがあったからこそ、D130は生れている。

ということは、もしD101にアルテックのクレームがなかったら、
D130は登場してこなかったはず。
となれば、その後のJBLの歴史は、いまとはかなり異っていた可能性が大きい。
かりにそうなっていたら、つまりD130がこの世に存在してなかったら、
岩崎先生のオーディオ人生はどうなっていたのか、
いったいD130のかわり、どのスピーカーユニット、スピーカーシステムを選択されていたのか、
そしてスイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告で書かれた次の文章──、
この項の(その11)で引用した文章をもう一度引用しておく。
     *
アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。
     *
この文章(表現)は生れてきただろうか──、そんなことを考えてしまう。

おそらくD101では、D130のようにコーヒーカップのスプーンのように音は立てない、はずだからだ。
そう考えたとき、ランシングのD101へのアルテックのクレームがD130を生み、
そのD130との出逢いが……、ここから先は書かなくてもいいはず。

Date: 11月 6th, 2011
Cate: JBL

なぜ逆相にしたのか(その9)

バックプレッシャー型のコンプレッションドライバーの構造図を頭に思い浮べていただきたい。
ダイアフラムが前(ホーンに向って)に動くのと、後ろに動くのとではどちらが反応がはやく動くであろうか。

ドーム状のダイアフラムの頂点は後ろを向いている。
それにホーンがついている分だけの空気圧がある、などを考えると、
ダイアフラムが後ろに動くことが、前に動くよりもスムーズに素早く動くように思う。

つまり位相は逆相になってしまうが、入力信号の最初の部分(半波)に関しては、
バックプレッシャー型のコンプレッションドライバーは後ろに動いた方が自然な動作のようにも感じる。
後ろに下ったダイアフラムは入力信号の次の半波によって前に出てくる。

この前に出てくるときの移動距離(振幅量)は、正相と逆相では違ってくる。
正相になっていれば入力信号の半波分(+側の信号)の振幅だけに前に動く。
逆相だと最初の半波の分だけ後ろに下っていて、前に出るときは次の半波分の振幅がそこに加わり、
このときのダイアフラムの正相よりも前に移動する距離(振幅量)は長くなる。
それだけ前に出てくる空気の量にも違いが出てくる。

正相であればまずダイアフラムが前に出て後ろに下る、この距離が逆相よりも長くなる。
すこしわかりにくい説明になっていると思っているが、
正相でも逆相でも入力信号が同じだからダイアフラムの振幅量に変化はないわけだが、
その向きに違いが出てくる、ということをいいたいわけだ。

もちろん入力信号1波で動く空気の量そのものに、正相でも逆相でも違いはないけれど、
その方向に注意を払ってこまかくみていくと、疎密波の密の部分と疎の部分の空気量に違いが出てくる。
つまりダイアフラムが前に出ることで密の波がうまれ、後ろに下ることで疎の波ができる。

入力信号が0から+側にふれてマイナス側にふれて0にもどるとき、
正相だとまず0から+側のピークまでの密の波が出て、+側のピークから−側のピークまでの疎の波が出て、
−側のピークから0までの密の波が出てくる。
逆相では0から+側のピークまで疎の波が出て、+側のピークから−側のピークまでの密の波が出て、
−側のピークから0までの疎の波が出てくる。

ダイアフラムの向きは正相だと前・後・前、逆相では後・前・後。
疎密波で表せば、正相だと密・疎・密になり、逆相だと疎・密・疎となる。

Date: 9月 29th, 2011
Cate: 4343, JBL, 瀬川冬樹

4343とB310(もうひとつの4ウェイ構想・その14)

それでは瀬川先生の音のバランスの特長は、どこにあるのかといえば、
それは、基音(ファンダメンタル)と倍音(ハーモニクス)とのバランスにある、と推断する。

これを理解できずに、瀬川先生の出されていた「音」を、周波数スペクトラム的な観点から、や、
使用されていたオーディオ機器への観点から追い求めても、まったく似ても似つかぬ(ただの)音になってしまう。

残念なのは、基音と倍音のバランスの観点(感覚)から、
実際に瀬川先生の「音」を聴かれた人の、瀬川先生の「音」について語られているのが、ない、ということだ。

Date: 9月 29th, 2011
Cate: JBL

62年前も……

ジェームズ・バロー・ランシングは、1949年の今日(9月29日)、命を絶っている。
62年前の今日も、木曜日だった。

Date: 9月 26th, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続々続々余談)

このレベル調整の大事なところのひとつは、ものには順番がある、ということ。
これは、スピーカーシステムのレベル調整だけではなくて、システム全体の調整についても同じことがいえる。

基本的にシステムの調整は、音の入口側(上流側ともいう)、
つまりアナログプレーヤー、CDプレーヤーから手をつけていく。
ここが一通り終ったら、次はアンプにうつり、スピーカーシステムへと手をつける。
長年愛用してきて、ずっと調整をしてきたシステムであれば、どこか一箇所に手をつけることのほうが多くなるが、
システムを構築したばかりのころは、今日はアンプ関係を、明日はスピーカーシステムを、と、
気のむくままにあちこちに手をつけるのではなくて、基本にしたがい音の入口側からきちんとやっていく。

スピーカーシステムのレベルコントロールの調整も同じで、
初めて鳴らすスピーカーシステムで、しかも4343のようにレベルコントロールが3つのあるような場合、
音を鳴らして気になった帯域を気のむくままいじっていても、全体のバランスをうまくとることはむずかしい。
めんどうくさいと感じても、ここでも順番を守って調整していくことで、基本的なバランスを得られる。

この基本的なバランスを得ずに、気の向くままいじっていては、オーディオはいつまでたっても泥沼のままだ。
とにかく基本的なバランスを最初に得ることが大事である。
そして、低音を基本として、という意識をつねにもっていたい。

低音こそ音楽の土台であり、この土台をしっかりと構築していくことが基本である。
土台をいいかげんなままにしておいて、その上に築き上げられる帯域をあれこれいじっても、うまくいくわけがない。
そうやっていても、たまたまうまく鳴ることがあるけれど、ほかのところをいじって、その音がくずれたとき、
もう一度、その音を再現できるかというと、難しいはずだ。
それは土台となる低音域が構築されていないからである。

五味先生は「音の清澄感を左右するものは、低音である」と「五味オーディオ教室」に書かれていた。

低音という土台・基本を出発点としているならば、この言葉を実感できるはずだ。

Date: 9月 26th, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続々続余談)

ミッドバス(2121)のレベル調整がいちおう決まったら、
次はミッドハイのレベルコントロールを上げていきレベル調整を行う。
ここでも、くり返すが、モノーラル音源を使うことを忘れないこと。

ミッドハイのあとはトゥイーター(2405)のレベル調整を行う。
もちろん、ここでもモノーラル音源を使う。

モノーラル音源は、なにもモノーラル録音である必要はない。
コントロールアンプにモードスイッチがついていれば、モノーラルにすればいい。
思い出してほしいのは、コントロールアンプについている機能は、
音を調整していくためにも必要な機能でもある、ということだ。

こうして4343を構成する4つのスピーカーユニットのレベル調整が終ったら、
しばらくの期間は、好きな音楽を聴いて過ごすのがいいと思う。

もちろんモノーラルでのレベル調整を終えた後にステレオで再生して、さらに細かいレベル調を続けて行っていい。
けれど、トゥイーターのレベル調整を終えるのに、ひとりでこの作業を行っているとけっこうな時間をとらえる。
誰か協力してくれる人がいて、4343の脇でこまかくレベルコントロールをいじってくれる人がいれば、
椅子から立ち上らなくても済むだけでなく、それ以上にレベル調整の作業ははかどるものである。

でもひとりだと、そうはいかない。
何度も何度も椅子から立ち上り4343のところへ行きレベルコントロールを動かしては、
また椅子に坐り音を聴き……、をくり返さなければならない。

まとまった時間のとれた時にこの作業を行ったとして、けっこうくたくたになる人もいるはず。
2405のレベル調整を終えた時点で疲労を感じていたら、その日はもうやめたほうがいい。

微調整は残っているとはいえ、ここまできちんと調整を行っていれば、
4343が変なバランスで鳴っている、ということはないからだ。

Date: 9月 22nd, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続々余談)

ここからのレベル調整で気をつけたいのは、レベルコントロールの位置を左右で合わせようとしないこと。
スピーカーユニットにはバラツキがある。
これは以前も書いていることだが、
JBLはスピーカーユニットに関しては、生産上の能率差を±1dBを許容範囲としている。
もっともこれは4343をつくっていた頃の、
JBL proのアプリケーション・エンジニアのゲーリー・マルゴリスの発言で、いまのJBLがそうだということではない。

けれど4343の時代では、最大で2dBの能率差が生じることもあるわけだ。
ステレオサウンドで使っていた4343、4344ではコーン型ユニットに関しては能率差は感じなかったが、
ドライバーユニットに関してははっきりと認められるだけの能率差があった。

だから前回の補足になるが、ウーファーだけを鳴らしたときも、
できれば左右の音圧差がないかどうかチェックしておきたい。
このときプログラムソースはモノーラルのものを使った方がいい。
これは、マルゴリスも、ステレオサウンド 51号掲載の4343研究の中で語っていることだ。

左右一本ずつでの音出しをし、モノーラルでの両チャンネルの音出しで中央に音源が定位するようにすること。
場合によってはアンプのバランスコントロール、
もしくはパワーアンプの入力レベルコントロール(左右独立調整のもの)での調整が必要になるかもしれない。

ミッドバス(2121)のレベルコントロールも同様で、モノーラルの音源を用意しておきたい。
モノーラル1本ずつでレベルを調整し、モノーラル音源の中央の定位が明確になるようにしていく。

ウーファーをネットワーク通さずに鳴らしたときと、
ネットワーク通しミッドバスまで鳴らしたときの再生帯域はそう違わない。
けれど、実際にこのふたつの音を比較すると、大きな違いがある。
片方はネットワークを経由していないウーファーだけの音、
もう片方は3つのフィルター(ウーファーのハイカット、ミッドバスのローカットとハイカット)を通って、
しかも2つのスピーカーユニットが鳴っているわけだから、違いがあって当然なのだが、
このときの音の違いは記憶しておきたい。

Date: 9月 21st, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・続余談)

4343のウーファー2231Aが弾むような感じでうまく鳴ってくれるところ、
音楽を聴いて手応えを感じられるような音で鳴ってくれるところが見つかったら、
ここで床からの距離を試してみる。

最初から1cm刻みで高さを変えていくという人もいるだろうが、
最初は5cm単位、10cm単位ぐらいでいい。
それで床に直置き、5cmあげた状態、10cmあげた状態、15cmあげた状態の音を聴いて、
たとえば床直置きと5cmあげた状態、どちらか迷うのであれば、その中間を試してみる。
このとき4343をもちあげる台は、まず木のブロックがいい。
もちろんほかの材質のブロックを使ってもかまわないが、
最初は同じ材質で高さの違うブロックを用意しやすいということで、木をすすめる。

この時点で、ウーファーを固定しているネジの締付け具合による音の変化も確認しておきたい。
しっかり締めた状態、すこしゆるめた状態、あきらかにゆるめた状態の音を聴いて、
音楽のメロディが明瞭に聴こえるところにしておく。
締めつけすぎはよくないが、しっかり締まっていなければ、音楽のメロディは明瞭に聴こえてこないはずだ。

ここまでやって、これから上3つのユニットのレベル調整にとりかかる。
ここからはバイアンプ駆動のロータリスイッチを通常のポジションに戻す。
ミッドバス(2121)、ミッドハイ(2420)、トゥイーター(2405)のレベルコントロールは完全に絞っておく。
そしてミッドバスのレベルコントロールをあげていく。ウーファーとのバランスをはかりながら調整していく。
ミッドバスのレベルをあるところまで調整できたら、ここでもミッドバスを固定しているネジ締付け具合を調整する。

だからといって、ここでものすごいこまかい微調整まで行わなくてもいい。
まだチューニングの途中なのだから。

Date: 9月 21st, 2011
Cate: 4343, JBL, ユニバーサルウーファー

スーパーウーファーについて(その15・余談)

低音域こそが土台であり基本であり、そこに、その上の帯域を築いていく、ということは、
なにも既存のスピーカーシステムにスーパーウーファーを加えて調整するときだけでなく、
既製品のスピーカーシステムについても同じことだ。

今年の2月から毎月第一水曜日に四谷三丁目の喫茶茶会記で行っている公開対談の前々回で、
JBLの4343をどう鳴らすのかをテーマにしたときにも話したことだが、
4343の調整方法として、こういうやり方もある。

4343はバイアンプ駆動が行えるようになっている。
リアバッフルの入力端子の近くに、
マイナスドライバーで切り替えられるようになっているロータリースイッチがある。
これをまずバイアンプ駆動のポジションにする。
そしてパワーアンプからのスピーカーケーブルは下側の端子(つまりウーファー用の端子)に接ぐ。
ウーファーの2231A(もしくは2231H)をフルレンジとして鳴らすことになる。

ボイスコイルボビンとコーン紙との接合部分に、
f0を下げるためのマスコントロールリングが装着されている2231Aだから、
2220やD130のウーファー版の130Aのように、
またはアルテックの515のようにある程度まで中高域まで伸びているわけではないが、
高域は完全に不足しているものの、音楽のメロディは聴きとれる。
この状態で、4343の設置場所をあれこれさぐる。
つまりウーファー(低音域)ができるだけよくなるところをさぐりだすわけだ。

スピーカー背面の壁からの距離、左右の壁からの距離をあれこれ試す。
このときは、床に直置きでもかまわない、というか、直置きのままのほうが動かしやすく、
最適もしくは好適な場所をさぐりやすい。

床からどのぐらい離すかは、最初にやらなくてもいい。
もちろんブックシェルフ型のスピーカーシステムだったら別だが、
4343は4面仕上げしてあるとはいうもののフロアー型スピーカーシステムであるからだ。