Archive for category ナロウレンジ

Date: 8月 30th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その5)

こんな実験をしてみたら、どうだろうか。
たとえば国産のブックシェルフ型スピーカーシステムを用意する。
ウーファーは30cm口径、スコーカー、トゥイーターはドーム型の構成だと、
カタログに掲載されている再生周波数帯域は、
低域は30Hzから40Hzのあいだ、高域はほとんどのものが20kHz以上になっている。
十分なレンジの広さを実現している、と、カタログ上の数値では、そういえる。

これらのスピーカーシステムの低域と高域をバンドパスフィルターでカットして鳴らしてみたら、
いったいどんな結果になるであろうか。
低域も高域も、40万の法則にしたがってカットするとしよう。
低域は100Hz、高域は4kHz、もしくは低域は80Hzで高域は5kHz。
どちらも低域と高域の積は40万になる。高域よりでもないし、低域よりでもない帯域幅だ。

国産の、上記のようなブックシェルフ型スピーカーシステムのクロスオーバー周波数は、
ウーファーとスコーカー間は400Hzから500Hzあたり、
スコーカーとトゥイーター間は4kHzから6kHzあたりに、たいていのものはある。
80Hzから5kHzのバンドパスフィルターを通したとしたら、
スコーカーだけでなくウーファーは確実に鳴っているし、トゥイーターも大半は鳴っている。
クロスオーバー周波数が高いものだとトゥイーターは関係ないように思われるかもしれないが、
ネットワークの遮断特性が12dB/oct.ならば、
6kHzのクロスオーバー周波数でもトゥイーターはレベルは下るものの鳴っている。

できれば、この実験は数機種用意してやりたい。
実際に、この実験をやったわけではないから、推測にしかすぎないが、
おそらく、そういう状態(つまりバンドパスフィルターを通した状態)で、聴き通せるスピーカーシステムと、
そうでないスピーカーシステムに分かれるのではないだろうか。

Date: 8月 30th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その4)

アルテックの755Eの音も、ウェスターン・エレクトリックの100Fの音も、
多くの人は、高域があまり伸びていない、とまず感じ、ナロウレンジの音だと判断されることだろう。

たしかにサインウェーヴで測定するかぎり、どちらも高域は伸びていない。
けれど、ここで考えたいのは、サインウェーヴでその測定結果と聴感上のレンジ感は一致することもあれば、
そうでないこともある、ということ。

よく聞く話に、こんなことがある。
テストレコード(テストCD)、もしくは発振器を使ってサインウェーヴを聞いてみたら、
年齢のせいか、もう20kHzなんてもちろん聞こえない。15kHzも無理で、12kHzあたりがどうにかこうにかで、
聴力が衰えることは頭ではわかっていても、その結果に愕然として、
もうこれからはスーパートゥイーターなてん不要で、ナロウレンジでいい、と。

こう語られる年輩の方がおられ、
若い人の中には、高域が聞こえにくくなっている年輩者の音の評価なんて当てにならない、という者もいる。

確かに高域に関しては若いときの方がよく聞こえるけれど、それはあくまでもサインウェーヴに関してのこと。
われわれがオーディオを介して聴くのは、サインウェーヴではなく、音楽であること。
音楽の波形とサインウェーヴの波形は、似て非なるものであること。

つまりサインウェーヴの高域が聞こえなくなったから、高音域まで再生できなくてもいい、
サインウェーヴの高域が聞こえなくなった聴覚は当てにならない、
このふたつは実に短絡的で、誤解でしかない。

サインウェーヴで捉えてしまうと、こんなふうに考えてしまうのも無理もないこととはいえ、
サインウェーヴの呪縛から解放されなければ、ワイドレンジについてもナロウレンジについても、
いつまでも誤解が解消されないままになってしまう。

Date: 8月 27th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その3)

アルテックの755Eを、そんな鳴らし方を、ときどき楽しんでいたときに、
ステレオサウンドの取材で出合ったのがウェスターン・エレクトリックの100Fである。
裏板の銘板には、LOUD SPEAKER SET、とあるとおり、アンプ内蔵の、いわゆるパワードスピーカーだ。

100Fは、電話交換手のモニター用としてつくられたもの、ときいている。
見た目は古めかしい。
最初見た時は、こんなものもウェスターン・エレクトリックか……と思ったぐらいだから、正直、あなどっていた。

記憶に間違いがなければ、たしかBGMを鳴らすときに100Fを使われた。
だから音量は小さめ、電話交換手のモニター用だから、
人の声(会話)が明瞭に聞こえることを目的として開発されたものだろうから、ワイドレンジではない。
せいぜい上は4〜5kHzぐらいまでか。下は100Hzぐらいであろう。
内蔵アンプも、電源トランスを排除しコストを抑えた設計・構造。
それなのに、耳(というよりも意識)は、100Fの方を向いていた。

聴いているうちに、無性に欲しくなった。
これも、やはりウェスターン・エレクトリックだな、とさきほどまでと正反対のことを思っていた。

100Fは、当時よりもいまの方が入手しやすくなったと思う。
あるところに訊いてみたところ、1台10万円だった。それもそんなに程度がいいとは思えない100Fだった。
しかも、私はステレオで鳴らしてみたい、などと思っていたから、
いくらアンプ内蔵とはいえ、20万円かかるだけでなく、すぐにはペアでは揃わない、ともいわれた。
まだ20、21歳くらいのときで、そんな余裕はなかった。

そのあとも何度か100Fを聴く機会はあった。
それでもステレオで聴いたことは、まだない。
いまでは、もうモノーラルでいいじゃないか、とも思っている。
100Fをステレオで鳴らしてみたい、という気持、あのころほどではなく薄れている。
とはいえ、100Fは、私が聴いていた音のなかで、もっともナロウレンジらしいナロウレンジの音かもしれない。

Date: 8月 26th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その2)

以前、アルテックの755Eを持っていた。
鳴らしていた、ではなく、持っていた、と書くのは、普段はダンボール箱の中にしまったままで、
ときどき思い出して引っぱり出してきて、鳴らす。

そういう使い方だから、755Eのために平面バッフルやエンクロージュアを用意していたわけではない。
梱包用のダンボール箱から出した755Eを床に置く。
つまりユニット前面が天井を向くようになるわけだ。
それでダンボール箱となかに入っていたダンボール紙を利用して、755Eを床から少し浮す。
床をバッフルみたいにして使う、しかもユニットは上向きだから、無指向性的使い方でもある。

755Eを使いこなしている方からみれば、なんといいかげんな、と怒られてしまいそうな鳴らし方なのだが、
意外にも、いい感じで鳴ってくれた。

低音も高音も出ていない。典型的なフルレンジ一発のナロウレンジの音なのだが、
それほど編成の大きくない録音を鳴らすと、中央に歌手が意外にも立体的に定位する。
さすがアルテックだな、声がいい感じ鳴ってくれる、と聴き惚れるぐらいの音が、
鳴らす音楽を選びさえすれば、そう思える音が鳴ってくれる。

ナロウだなぁ、と感じるのは聴きはじめのわずかのあいだだけで、
すぐに耳がなれてしまうのか、ナロウレンジであることはさほど気にならなくなる。
そうなってくると、マルチウェイのスピーカーシステムでは鳴らしにくいところを、
すんなり出してくれていることに気がつく。
もちろんマルチウェイのスピーカーシステムが苦手とするところすべてを、
フルレンジ一発のシステムがうまく鳴らすわけではないが、
フルレンジのナロウな音に耳がなれてくると、
意外にも楽器固有の音色の描き分けに関してはフルレンジの方が優っていることが多いのでは……と思えてくる。
楽器の音色だけではない、人の声、歌い手による声質の違いに関しても、
フルレンジのほうが素直に出してくる、というか、聴き分けやすいところがあることに気づく。

Date: 8月 26th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その1)

私は、ワイドレンジを志向している。
でも、ずっとそうだったわけではなく、むしろ20代前半のころは、ナロウレンジ志向とまではいえなくても、
ワイドレンジを志向していたわけではないこともあった。

ナロウレンジのよさ、というよりも、フルレンジのスピーカーユニットによるよさを積極的に認めていた、
と言いなおした方が、より正確かもしれない。

ワイドレンジを志向する以上、スピーカーシステムはマルチウェイに必然的になっていく。
それは周波数レンジの拡大だけでなく、別項の「ワイドレンジ考」で述べているように、
ダイナミックレンジ、指向特性の拡大など、すべての意味でワイドレンジであるためには、
いまのところ、どんなに優秀なフルレンジのスピーカーユニットが登場したところで、無理なことだ。

ワイドレンジ実現のために、スピーカーユニットを組み合わせてスピーカーシステムとしてまとめていく。
時間をかけて入念に仕上げていけば、かなり満足のいくワイドレンジ再生が可能になるであろう。

そういうシステムがひとまずうまくまとまったときに、フルレンジユニットを、
平面バッフル(もともと周波数レンジが広いわけではないので、大きなサイズはいらない)か、
余裕をもった内容積のエンクロージュアにとりつけて鳴らしたときの良さは、
精魂込めてまめてあげてきたワイドレンジのスピーカーシステムが、
どうしても出せない音(良さ)をもっていることに気づくことがある。

その良さは、フルレンジユニットだから鳴らせるのか、それとも適度にナロウレンジだから鳴らせるのか、
はたまたそのふたつの要因がうまく作用してことなのか。
とにかくフルレンジ一発のスピーカーしか出せない良さが、まだある、といえる。

日頃、ワイドレンジの音に馴れ親しんでいると、ナロウレンジの音をたまに耳にすると、
「ナロウだなぁ」と感じる。
それでも良質のフルレンジユニットによる、良質のナロウレンジの音であるならば、
すぐに耳のピントは、そのナロウレンジの音に合い、「ナロウだなぁ」と感じたのはほんの一瞬のことにしかすぎず、
すっかり、そのナロウなフルレンジの音を楽しんでいる自分がいることになる。