Archive for category ナロウレンジ

Date: 8月 27th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その3)

アルテックの755Eを、そんな鳴らし方を、ときどき楽しんでいたときに、
ステレオサウンドの取材で出合ったのがウェスターン・エレクトリックの100Fである。
裏板の銘板には、LOUD SPEAKER SET、とあるとおり、アンプ内蔵の、いわゆるパワードスピーカーだ。

100Fは、電話交換手のモニター用としてつくられたもの、ときいている。
見た目は古めかしい。
最初見た時は、こんなものもウェスターン・エレクトリックか……と思ったぐらいだから、正直、あなどっていた。

記憶に間違いがなければ、たしかBGMを鳴らすときに100Fを使われた。
だから音量は小さめ、電話交換手のモニター用だから、
人の声(会話)が明瞭に聞こえることを目的として開発されたものだろうから、ワイドレンジではない。
せいぜい上は4〜5kHzぐらいまでか。下は100Hzぐらいであろう。
内蔵アンプも、電源トランスを排除しコストを抑えた設計・構造。
それなのに、耳(というよりも意識)は、100Fの方を向いていた。

聴いているうちに、無性に欲しくなった。
これも、やはりウェスターン・エレクトリックだな、とさきほどまでと正反対のことを思っていた。

100Fは、当時よりもいまの方が入手しやすくなったと思う。
あるところに訊いてみたところ、1台10万円だった。それもそんなに程度がいいとは思えない100Fだった。
しかも、私はステレオで鳴らしてみたい、などと思っていたから、
いくらアンプ内蔵とはいえ、20万円かかるだけでなく、すぐにはペアでは揃わない、ともいわれた。
まだ20、21歳くらいのときで、そんな余裕はなかった。

そのあとも何度か100Fを聴く機会はあった。
それでもステレオで聴いたことは、まだない。
いまでは、もうモノーラルでいいじゃないか、とも思っている。
100Fをステレオで鳴らしてみたい、という気持、あのころほどではなく薄れている。
とはいえ、100Fは、私が聴いていた音のなかで、もっともナロウレンジらしいナロウレンジの音かもしれない。

Date: 8月 26th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その2)

以前、アルテックの755Eを持っていた。
鳴らしていた、ではなく、持っていた、と書くのは、普段はダンボール箱の中にしまったままで、
ときどき思い出して引っぱり出してきて、鳴らす。

そういう使い方だから、755Eのために平面バッフルやエンクロージュアを用意していたわけではない。
梱包用のダンボール箱から出した755Eを床に置く。
つまりユニット前面が天井を向くようになるわけだ。
それでダンボール箱となかに入っていたダンボール紙を利用して、755Eを床から少し浮す。
床をバッフルみたいにして使う、しかもユニットは上向きだから、無指向性的使い方でもある。

755Eを使いこなしている方からみれば、なんといいかげんな、と怒られてしまいそうな鳴らし方なのだが、
意外にも、いい感じで鳴ってくれた。

低音も高音も出ていない。典型的なフルレンジ一発のナロウレンジの音なのだが、
それほど編成の大きくない録音を鳴らすと、中央に歌手が意外にも立体的に定位する。
さすがアルテックだな、声がいい感じ鳴ってくれる、と聴き惚れるぐらいの音が、
鳴らす音楽を選びさえすれば、そう思える音が鳴ってくれる。

ナロウだなぁ、と感じるのは聴きはじめのわずかのあいだだけで、
すぐに耳がなれてしまうのか、ナロウレンジであることはさほど気にならなくなる。
そうなってくると、マルチウェイのスピーカーシステムでは鳴らしにくいところを、
すんなり出してくれていることに気がつく。
もちろんマルチウェイのスピーカーシステムが苦手とするところすべてを、
フルレンジ一発のシステムがうまく鳴らすわけではないが、
フルレンジのナロウな音に耳がなれてくると、
意外にも楽器固有の音色の描き分けに関してはフルレンジの方が優っていることが多いのでは……と思えてくる。
楽器の音色だけではない、人の声、歌い手による声質の違いに関しても、
フルレンジのほうが素直に出してくる、というか、聴き分けやすいところがあることに気づく。

Date: 8月 26th, 2011
Cate: ナロウレンジ

ナロウレンジ考(その1)

私は、ワイドレンジを志向している。
でも、ずっとそうだったわけではなく、むしろ20代前半のころは、ナロウレンジ志向とまではいえなくても、
ワイドレンジを志向していたわけではないこともあった。

ナロウレンジのよさ、というよりも、フルレンジのスピーカーユニットによるよさを積極的に認めていた、
と言いなおした方が、より正確かもしれない。

ワイドレンジを志向する以上、スピーカーシステムはマルチウェイに必然的になっていく。
それは周波数レンジの拡大だけでなく、別項の「ワイドレンジ考」で述べているように、
ダイナミックレンジ、指向特性の拡大など、すべての意味でワイドレンジであるためには、
いまのところ、どんなに優秀なフルレンジのスピーカーユニットが登場したところで、無理なことだ。

ワイドレンジ実現のために、スピーカーユニットを組み合わせてスピーカーシステムとしてまとめていく。
時間をかけて入念に仕上げていけば、かなり満足のいくワイドレンジ再生が可能になるであろう。

そういうシステムがひとまずうまくまとまったときに、フルレンジユニットを、
平面バッフル(もともと周波数レンジが広いわけではないので、大きなサイズはいらない)か、
余裕をもった内容積のエンクロージュアにとりつけて鳴らしたときの良さは、
精魂込めてまめてあげてきたワイドレンジのスピーカーシステムが、
どうしても出せない音(良さ)をもっていることに気づくことがある。

その良さは、フルレンジユニットだから鳴らせるのか、それとも適度にナロウレンジだから鳴らせるのか、
はたまたそのふたつの要因がうまく作用してことなのか。
とにかくフルレンジ一発のスピーカーしか出せない良さが、まだある、といえる。

日頃、ワイドレンジの音に馴れ親しんでいると、ナロウレンジの音をたまに耳にすると、
「ナロウだなぁ」と感じる。
それでも良質のフルレンジユニットによる、良質のナロウレンジの音であるならば、
すぐに耳のピントは、そのナロウレンジの音に合い、「ナロウだなぁ」と感じたのはほんの一瞬のことにしかすぎず、
すっかり、そのナロウなフルレンジの音を楽しんでいる自分がいることになる。