ナロウレンジ考(その4)
アルテックの755Eの音も、ウェスターン・エレクトリックの100Fの音も、
多くの人は、高域があまり伸びていない、とまず感じ、ナロウレンジの音だと判断されることだろう。
たしかにサインウェーヴで測定するかぎり、どちらも高域は伸びていない。
けれど、ここで考えたいのは、サインウェーヴでその測定結果と聴感上のレンジ感は一致することもあれば、
そうでないこともある、ということ。
よく聞く話に、こんなことがある。
テストレコード(テストCD)、もしくは発振器を使ってサインウェーヴを聞いてみたら、
年齢のせいか、もう20kHzなんてもちろん聞こえない。15kHzも無理で、12kHzあたりがどうにかこうにかで、
聴力が衰えることは頭ではわかっていても、その結果に愕然として、
もうこれからはスーパートゥイーターなてん不要で、ナロウレンジでいい、と。
こう語られる年輩の方がおられ、
若い人の中には、高域が聞こえにくくなっている年輩者の音の評価なんて当てにならない、という者もいる。
確かに高域に関しては若いときの方がよく聞こえるけれど、それはあくまでもサインウェーヴに関してのこと。
われわれがオーディオを介して聴くのは、サインウェーヴではなく、音楽であること。
音楽の波形とサインウェーヴの波形は、似て非なるものであること。
つまりサインウェーヴの高域が聞こえなくなったから、高音域まで再生できなくてもいい、
サインウェーヴの高域が聞こえなくなった聴覚は当てにならない、
このふたつは実に短絡的で、誤解でしかない。
サインウェーヴで捉えてしまうと、こんなふうに考えてしまうのも無理もないこととはいえ、
サインウェーヴの呪縛から解放されなければ、ワイドレンジについてもナロウレンジについても、
いつまでも誤解が解消されないままになってしまう。