Archive for category D130

Date: 5月 30th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その9)

定電圧出力アンプと定電流出力アンプの違いは、負荷に対する出力インピーダンスの違い、ともいえる。
つまり負荷インピーダンスよりも十分に低い出力インピーダンスであれば定電圧出力、
負荷インピーダンスよりも十分に高い出力インピーダンスならば定電流出力ということになる。

十分に低い、十分に高いとはどのくらいの値のことになるのか。
低い方はすんなりいえる。
パワーアンプの出力インピーダンスが0.1Ωならば十分に低い値といえる。
パワーアンプのカタログに載っているダンピングファクターは、
負荷インピーダンスを出力インピーダンスで割った値である。

出力インピーダンスが0.1Ωでスピーカーのインピーダンスが8Ωならば、ダンピングファクターは8/0.1=80。
0.4Ωの出力インピーダンスでも8/0.4=20。
ダンピングファクター20といえば、マランツのModel 2がそうである。

出力インピーダンスが1Ωだとダンピングファクターは8。これでも低いといえば低いのだが、
やはり十分に低いということになると、ダンピングファクター10をこえたあたりからであり、
つまり負荷インピーダンスに対し出力インピーダンスは1/10以下ということ。

では十分に高い方もスピーカーのインピーダンスよりも10倍高い値、
つまり80Ωほどの出力インピーダンスをもつパワーアンプであれば定電流出力となるのかといえば、
必ずしもそうとはいえない。

なぜかといえば負荷となるスピーカーのインピーダンスカーヴが大きく変動するからである。
それもf0において高い方へ、と。

公称インピーダンス8Ωのスピーカーで、f0でのインピーダンスも10Ω程度であれば、
出力インピーダンスが80Ωでも定電流出力といえるけれど、
実際にはf0でのインピーダンスの上昇はそんなものではない。
20Ω、30Ωくらいにはすぐなるスピーカーは多いし、古い設計のスピーカーであればもっと上昇する。

JBLのD130のインピーダンスカーヴをみると、約90Ω。
アルテックの604-8Gでは100Ωをすこしこえている。
こういうスピーカーが負荷であれば、出力インピーダンスが80Ωあったとしても、
foにおいては十分な高い値どころか、逆にわずかではあるが低い値になってしまう。

f0でのインピーダンス上昇を含めて全体にわたり定電流出力を実現するには80Ω程度では十分とはいえない。

Date: 5月 29th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その8)

f0は最低共振周波数のこと。
そのf0でインピーダンスが上昇するのは共振しているからであって、
つまりはf0においてはそれほどパワーを必要としないわけである。

このことはスピーカーの教科書的な本に書いてあることだから、
オーディオに興味を持ちはじめてすぐのころには知識としては持っていた。

確かに共振しているからパワーは少なくといい、という理屈はわかる。
でも同時にオーディオの初心者として疑問だったのは、
共振しているものを完全に制御するのに、そうでない周波数よりも、より大きなパワーを必要とするのではなのか、
そんなことを漠然と感じていた。

振動板が静止していて、それを動かすのであればf0でインピーダンスが高くてパワーが少なくていい、
というのは素直に理解できるのだが、スピーカーの振動板は音楽を鳴らしているときにはつねに動いていてる。
その動いている状態でf0のインピーダンスが上昇し、
定電圧出力のパワーアンプではパワーが少ししか入らないということは、
音楽信号によって動いている振動板を制御できるのだろうか──、そう考えたわけだ。

もしかすると共振して動いている状態の振動板を制御するのには、意外にもパワーを必要とするのかもしれない。
だとしたらインピーダンスとパワーが比例関係にある定電流出力の方がいいのではないか──、そうも考えた。

実際のところスピーカーの実動作を正しく解析できるわけでもなく、そう考えるだけに留まっているのだが、
スピーカーはいつのころから定電圧駆動が前提となっていったのか、そのことについても考えていた。

D130が生れた1948年は、まだそんなことは前提として決っていなかった(はず)と、
同時代のアンプの回路図を見ていると、そう思えてくる。

Date: 5月 27th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その7)

定電流出力のパワーアンプは定電圧出力のパワーアンプが、
負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するのに対して、
負荷インピーダンスが変化してもつねに一定の電流を供給する。

オームの法則では電流の二乗に負荷インピーダンスをかけた値が電力だから、
負荷インピーダンスが高い周波数では、定電流出力のパワーアンプを使った場合には出力が増すことになる。
この出力の、負荷インピーダンスに対する変化は、定電圧出力と定電流出力とでは正反対になるわけだ。

もちろん、どの周波数においても、8Ωならつねに8Ωというスピーカー(純抵抗ごときスピーカー)ならば、
定電圧出力パワーアンプでも定電流出力のパワーアンプでも、出力においては差は生じないことになるが、
現実のスピーカーシステムはf0ではインピーダンスが上昇するし、
中高域においてもインピーダンスが多少なりとも変動するものが大半であることはいうまでもない。

スピーカーの駆動において、定電流出力がいいのか、定電圧出力がいいのかは、
日本でも1970年代ごろのラジオ技術でかなり論議された、と聞いている。
いまでもラジオ技術では定電流駆動についての実験記事が載ることがある。

実は私も、定電圧出力か定電流出力かについては、
オーディオに興味を持ちはじめたころ、疑問に思った時期がある。

電圧と電流とでは、電力に結びつくのは電流である。
スピーカーを駆動するにはパワーが必要である。
とくに低能率のスピーカーにおいてはより大きなパワーを必要とする。
ということは電流をいかに供給できるか、ということであって、
それならば定電流出力のほうが、実は本質的ではないか、と考えたわけだ。

もちろんオームの法則はすでに知っていたからf0においてインピーダンスが上昇すれば、
f0における出力は、仮に40Ωになれば5倍の出力になるわけで、
スピーカーの周波数特性はインピーダンス・カーヴそのままになることは想像できたし、
定電圧出力を前提にスピーカーシステムはまとめられていることも知ってはいた。

にもかかわらず、それでも……と思うところもあった。

Date: 5月 25th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その6)

真空管アンプの歴史を調べてみたからといって、
ランシングが実際使っていたアンプの詳細がはっきりしてくるわけではない。

だから、どこまでいっても憶測に過ぎないのだが、
ランシングが使っていたアンプはNFBはかけられていたても、
出力トランスはNFBループに含まれていなかった、と思う。

出力段はプッシュプルだったのではないか、と思う。
D130のように高能率のスピーカーでは、ハム、ノイズが目立つ。
だから、少なくとも直熱三極管のシングルアンプということはなかったはず。

せいぜいいえるのは、このくらいのことでしかない。
にも関わらず、わざわざ「D130とアンプのこと」というテーマをたててまで書き始めたのは、
スピーカーとアンプとの関係の変化について考えてみたかったからである。

現在のスピーカーは定電圧駆動されることを前提としている。
つまり定電圧出力のパワーアンプで鳴らしたときに特性が保証されているわけだ。

定電圧アンプとは負荷インピーダンスの変化に関係なく一定の電圧を供給するというもの。
スピーカーはf0附近でインピーダンスが上昇するのがほとんどである。
定電圧アンプはf0でインピーダンスが数10Ωに上昇していてもインピーダンスが8Ωであっても、
10Vなら10Vの電圧を供給する。

オームの法則では電力は電圧の二乗をインピーダンスで割った値だから、
電圧は負荷インピーダンスの変化に関係なく一定だから、
インピーダンスの高いところでは電力(つまりパワーアンプの出力)は小さく、
インピーダンスの低いところでは大きくなる。
これはカタログを見ても、出力の項目に8Ω負荷時、4Ω負荷時のそれぞれの値をみればすぐにわかることである。

現在市販されているパワーアンプのほぼすべては定電圧出力といえる。
定電圧があれば定電流がある。
パワーアンプにも定電流出力がある。

Date: 5月 24th, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その5)

リークのPoint Oneにしろウィリアムソン・アンプにしろ、
1940年代後半に出力トランスを含んで、あれだけのNFBをかけられたのは、
パートリッジ製の出力トランスがイギリスにはあったから、といえるのではないだろうか。

この時代に、アメリカでパートリッジのトランスがどれだけ流通していたのかは、私は知らない。
当時のアメリカの雑誌にあたれば、そのへんのことは掴めるだろうが、
いまのところははっきりしたことは何も書けない。

ただマッキントッシュのA116、マランツのModel 2の登場時期からすれば、
パートリッジのトランスが流通していたとしても、それほどの量ではなかったのかもしれない。

それにウィリアムソン・アンプの発表と同時期に
アメリカではオルソン・アンプが話題になっていることも考え合わせると、
少なくともランシングが生きていた時代のアメリカのパワーアンプは、
メーカー製も自作も含めて、出力トランスがNFBループに含まれることはほとんどなかったと推測できる。

1947年7月にマサチューセッツの単グルウッドで行われたRCAのラジオ・テレビショウで、
オーケストラの生演奏とレコード再生のすり替え実験で使われたアンプが、オルソン・アンプである。
ここで使われたスピーカーはLC1Aで、12台がステージの前に設置されている。

オルソン・アンプの回路構成は、6J5で増幅した後にボリュウムがはいり(いわばここがプリ部にあたる)、
双三極管6SN7の1ユニットで増幅した後に6SN7ののこりのユニットによるP-K分割で位相反転を行ない、
出力段は6F6を三極管接続したパラレルプッシュプルとなっている。
NFBはかけられてなく、出力トランスもパートリッジの分割巻きといった特殊なものを使わずにすむ。

しかもオルソン・アンプの回路図には調整箇所がない。
ウィリアムソン・アンプには、出力管のカソードに100Ωの半固定抵抗、グリッド抵抗に100Ωの半固定抵抗がある。

この時代としては特殊で高性能なトランスも必要としない、調整箇所もなし、ということで、
アマチュアにも再現性の高いように一見思えるオルソン・アンプだが、
たとえば電源部の平滑コンデンサーの定格は450V耐圧の50μF、40μF、20μFという、
当時としては大容量の電解コンデンサーを使っている。ウィリアムソン・アンプのこの部分は8μF。

いまでこそ450V耐圧の50μFの良質なコンデンサーは入手できるものの、
オルソン・アンプが発表されたころの日本製のコンデンサーには、
これだけの耐圧とこれだけの容量のものはなかったはず。

しかもオルソン・アンプの電源トランスのタップは390Vとなっていて、
これを5Y3(整流管)と50μFのコンデンサーインプットだから
出力管の6f6にかかるプレート電圧は定格ぎりぎりに近く意外に高い。
そのためRCA製の6F6を使えば問題なく動作したオルソン・アンプだが、
日本製の6F6ではすぐにヘタってしまいダメになった、という話を聞いたか、読んだことがある。

とはいえランシングはアメリカに住んでいたわけだから、こんな問題は発生しなかったわけだ。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その4)

A116の回路構成は、ウィリアムソン・アンプにかなり近いものになっており、
それまでの15W-1、50W-1とはこの点でも異っている。
もちろんマッキントッシュの独自のユニティ・カップルド回路と組み合わせたものである。

このA116のほぼ2年後にマランツのModel 2が登場する。
Model 2はダンピングファクター調整機構をもっていて、そのため通常の電圧帰還のほかに電流帰還もかけている。
さらにModel 2は出力管のEL34をUL接続している。
UL(Ultra Linear)接続が「Audio Engineering」誌に発表されたのが1951年11月号のこと。

Model 2や、その後のマッキントッシュのアンプについて書いていくと脱線していくだけだからこの辺にしておくが、
アメリカにおいて出力トランスがNFBループに含まれるようになり、
しかも安定したNFBがかけられるようになっていったのは1950年代の半ばごろ、といっていいと思う。

1949年9月29日に自殺したランシングは、これらのパワーアンプを聴いてはいない。
いったいどんなアンプだったのか。
ウィリアムソン・アンプ以前に、出力トランスをNFBループにいれたアンプとして、
やはりウィリアムソン・アンプと同じイギリスのリークのPoint Oneがある。

Point One(ポイントワン)という名称は、歪率0.1%を表したもので、
1945年に登場したType 15は出力段にKT66の三極管接続のプッシュプルを採用し、
歪率0.1%で15Wの出力を実現していたパワーアンプである。

リークの管球式パワーアンプといえば、BBCモニタースピーカー用のアンプとしても知られている。
そのアンプのひとつ、1948年に登場したTL12は、
Type 15と同じでKT66の三極管接続のプッシュプルの出力段をもち、
初段はEF36、位相反転はECC33のカソード結合で、一見ムラード型アンプと同じにみえるが、
初段と位相反転段のあいだにはコンデンサーがはいっている点が異る。

TL12の回路図を見て気づくのは、出力トランスが分割巻きになっていることだ。
TL12の内部写真でトランスの底部(端子側)をみると、パートリッジ製のように思える。
だとするとウィリアムソン・アンプと同じ銘柄の出力トランスということになる。

Date: 5月 23rd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その3)

1951年には50W-2がマッキントッシュから出ている。
50W-1からの変更点については詳しいことははっりきしないが、
50W-2でも出力トランスはNFBループに含まれていない。

マッキントッシュのパワーアンプで出力トランスがNFBループに含まれる(2次側からNFBをかけている)のは、
1853年発売のA116からである。
A116は業務用として開発されたアンプで、その後のMC30、MC60とはシャーシー・コンストラクションも、
シャーシーの仕上げも異る。型番のつけ方も、これアンプだけ違っている。

A116は実際にウェスターン・エレクトリックのトーキーシステムに採用されている。
話は少し脱線してしまうが、このA116について、伊藤先生が語られている。
     *
マッキントッシュを使ったアンプリファイアーの番号はA116というんですが、これはたぶんマッキントッシュの型番だと思います。というのは、これと同じところにウェスターン26というアンプリファイアーがあるんです。このアンプの年代が1954年8月になっていて、中のサーキットはA116とまったく同じなんです。(中略)
このA116、すなわちウェスターン26ですね、これは私も見ましたし音も聴きました。ちょうど映画がシネマスコープになりはじめたころで、シネマスコープはアンプが4台必要ですから、それまでのウェスターンの製品ではとても大きくて取り付けられなかったんです。(中略)
(A116は)いわゆるハイフィデリティー用でしょう。だから高域から低域まで、スキーンと伸びたすばらしい音がしました。だけどね、このアンプをトーキーに使ったときに、一つの問題があったんです。それは、あまりに帯域が広いために、余計なビンビン、バリバリ、ドンドコというノイズが出てきて困ったことがあるんです。もっとも、トーキー用にするために方々にフィルターを入れて取ってはいますけどね。やはり、アンプリファイアーの癖として、フレケンシー・レンジの広い奴はトーキーに持ってくると困るねえ。……それで泣いた事があります。
(ステレオサウンド別冊 世界のオーディオ〈マッキントッシュ〉「劇場やスタジオでつかわれたマッキントッシュ」より)
     *
A116は伊藤先生が語られているように業務用アンプとして日本にもはいってきており、
仙台日活劇場、田川東洋劇場、京都東洋現像所試写室、東映京都撮影所試写室、大映京都撮影所試写室、魚津大劇、
スイト会館(大垣)、内田橋劇場(名古屋)、知多キネマ(半田)、鶴城映画劇場(西尾)、
大映東京撮影所試写室に設置、使用されていた。

A116はさらにRCAの放送設備用アンプとしても使われており、
RCAの製品としての型番はM111229、50W-2もM111236という型番になっている。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その2)

日本においてはウィリアムソン・アンプのことが広く知れ渡るようになったのは、
1947年の「Wireless World」の記事ではなく、2年後の49年の同誌8月号に掲載された、より詳細な記事であり、
この記事が翌50年のラジオ技術3月号に掲載されてから、ということだ。

アメリカではどうだったのだろうか。
当時の日本と比べれば、出力トランスの優秀なものはいくつもあったと思う。
けれどパートリッジ製のトランスと同等の性能のトランスで、
出力トランスの2次側から20dBものNFBをかけて高域で発振しないトランスは、
それほど多くはなかったのではなかろうか。
だからこそ、ウィリアムソン・アンプはアメリカでは注目されていったように思う。

JBLのD130は1948年に登場している。
ウィリアムソン・アンプの最初の記事の1年後なのだが、
アメリカに住むランシングがこのときウィリアムソン・アンプを手にしていたとは思えない。

ランシングがどんなアンプを使っていたのか、で、もうひとついえることは、
自作の真空管アンプ、もしくは電蓄の真空管アンプに近いものであった可能性がある、ということ。

いわゆるハイファイアンプと呼べる真空管アンプが登場するのは、もう少し後のことである。
マッキントッシュがユニティ・カップルド回路で特許を取得したのが1948年、D130と同じ年。
マッキントッシュの設立は翌49年1月のことである。
マッキントッシュの最初のアンプはパワーアンプ15W-1、50W-1である。

一方マランツの設立は1951年で、最初のアンプはコントロールアンプのModel 1で、
パワーアンプのModel 2の登場は1956年のことである。

マッキントッシュの15W-1、50W-1の回路がどうなっているのかは知らない。
回路図を見たことがないからだが、1951年に登場した20W-2の回路図を見ると、
出力トランスの2次側からのNFBはない。
おそらく15W-1、50W-1も出力管とそれにともなう出力の違いはあっても、
基本的な回路は20W-1と同じと考えていいはずだ。

となるとマッキントッシュの最初のパワーアンプも出力トランスの2次側からのNFBはなかった、といえる。
NFBは出力管のカソードから初段管のカソードへとかけられている。
もちろんプッシュプル構成なのでNFBの経路は2つあるわけだ。

Date: 5月 22nd, 2012
Cate: D130, JBL

D130とアンプのこと(その1)

6年ぐらい前のことになるが、
このときはmixiをやっていて、そこで「JBLのランシングはどんなアンプを使っていたのか」という質問を受けた。

JBLブランドのアンプが登場するのはランシングが亡くなってから、
真空管からトランジスターへ移行してからである。
ランシングが、どんなアンプで自らのスピーカーユニットを鳴らしていたのかは、
いくつかな資料を見てもまったく手掛かりがない。

確実にいえることは、真空管アンプだ、ということだけ。
真空管アンプといっても、いろいろな形態がある。
どんな真空管アンプなのか、は、もう想像するしかない。

真空管アンプで、20dBもの高帰還アンプとして登場したウィリアムソンアンプは、
イギリスの雑誌「Wireless World」の1947年4/5月号で論文発表されている。

ウィリアムソン・アンプは、電圧増幅段に使われているのはL63/6J5、
出力段はKT66を三極管接続にしたプッシュプル。
位相反転は2段目のP-K分割。初段とこの位相反転とのあいだは直結となっている。
NFBは出力トランスの2次側から初段のカソードへとかけられている。

いまウィリアムソン・アンプの回路図を眺めても、
ウィリアムソン・アンプの登場を体験していない世代にとっては、
当時の人が受けた衝撃の大きさはなかなか理解しにくいが、
真空管アンプの歴史を少しでも調べていった人ならば、その大きさの何割かは実感できると思う。

ウィリアムソン・アンプは、イギリスの雑誌に発表されたことからもわかるようにイギリスで生れた。
そしてウィリアムソン・アンプの要となる出力トランスは、分割巻きのトランスで知られるパートリッジ製である。

このパートリッジ製の出力トランスの優秀性のバックアップがあったからこそ、
20dBものNFBを安定にかけられた、ということだ。
つまり当時ウィリアムソン・アンプを実現するには、
パートリッジ製と同等の性能をもつ出力トランスが必要だったことになる。

Date: 4月 24th, 2012
Cate: D130, JBL, 異相の木

「異相の木」(その6)

この項の(その2)でも書いているように、(その1)を書いてから(その2)までを書くのに三年以上あいている。
(その2)を書こうと思ったのは、別項でJBLのD130について書き始めたからである。

D130は、私がこれまで使ってきたスピーカーとは異る。
私が聴く音楽、求めている音、そして理想とするスピーカー像からしても、D130はぴったりくるモノではない。
それでも、昔からD130の存在は気になっていた。

気になっていた、といっても、ものすごく気になる存在というレベルではなく、
なんとなく、すこし気になる程度の存在であったD130が、
ここにきてすごく気になる存在になってきた。

これはD130が、私のなかで「異相の木」として育ってきたからなのかもしれない。
最初は芽がでたばかり、という存在のD130が、D130の存在を知って30年以上経て、
いつしか、どうしても視界にはいってくる気になる木になっていた。

これまでは、いままで使ってきたいくつかのスピーカーシステムという木の陰にかくれていたからか、
ここにくるまで気がつかなかったのだろう。

でも、いまははっきりと視界のなかにいるD130は、私にとっては「異相の木」だという確信がある。
だから、欲しい、という気持ではなく、
一度本気で使ってみなければならない、という気持が日増しに強くなっている。

黒田先生が「異相の木」をステレオサウンド 56号に書かれて、読んだ時から30年以上経ち、
私にとっての、オーディオにおける「異相の木」をやっと見つけることができた──。
というよりも気づくことができた、というべきかもしれない。

Date: 2月 11th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・余談)

D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。
D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。
(これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。)

1925年、世界初のスピーカーとして、
スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、
C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。
このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。

エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。

おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、
人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。

エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、
低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。
これは偶然なのだろうか、と考える。
エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。
この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、
もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。

どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。

GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。
エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、
スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。
どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、
この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、
世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。

このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、
周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。

なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。
振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。
最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。

Date: 2月 8th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25)

JBL・D130のトータルエネルギー・レスポンスをみていると、
ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、
ほぼ40万の法則に添うものとなっている。
100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。

とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。
このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。

D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。
残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。
なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。
D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、
トータルエネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。

604-8Gのトータルエネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、
100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。

ならばタンノイのHPD315はどうかというと、
100Hzから4kHzのトータルエネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、
残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。
それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。

コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。
この音力が、D130とHPD315とではいくぶん開きがあるのと、
ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。
(試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。)

20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、
100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、
音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、
結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、
それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。

このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。
(私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。
そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。)

Date: 1月 15th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)

ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。
国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、
トータルエネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。
測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、
トータルエネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。

HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータルエネルギー・レスポンスの良さだ。
D130よりもトータルエネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。
あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、
D130のトータルエネルギー・レスポンスは、
帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、
ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。

この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、
なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。
D130と同じJBLのLE8Tでも、トータルエネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、
その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。
サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、
トータルエネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。

その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、
このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。
ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。

とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、
トータルエネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、
周波数特性とトータルエネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)

ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。
高校生なりに考えた当時の結論は、
電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。
ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、
電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。
もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。

そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、
この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。

一方、トータルエネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、
エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。
そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、
音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。

では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、
これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。
単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、
音力と呼べるものはある、といまでも思っている。

音力を表したものがトータルエネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、
音力の一部を捉えたものである、と考えているし、
この考えにたって、D130のトータルエネルギー・レスポンスをみてみると、
その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。

Date: 1月 14th, 2012
Cate: 40万の法則, D130, JBL, 岩崎千明

40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22)

マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、
オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。
つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、
周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータルエネルギー・レスポンス、
残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、
残響室での能率とリアル・インピーダンスである。

サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータルエネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、
44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。
44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、
つまり周波数特性は向上している、といえる。
ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。
しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。

けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。
中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、
単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、
54号のトータルエネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。

けれど54号のトータルエネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。
サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、
ピンクノイズで計測したトータルエネルギー・レスポンスでは、
まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。
しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。

中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。
しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。
これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。

ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、
周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。