賞からの離脱(その13)
“State of the Art”ということばを知ったときから30年以上が経ち、
いまこういうことを書いていても、”State of the Art”の定義を的確な日本語で表現するのは難しい。
それでも私なりに”State of the Art”にふさわしいオーディオ機器は、いくつもあげられる。
すっと頭に浮んでくるオーディオ機器がいくつもある。
だから、そうやって浮んでくるオーディオ機器に共通するものをさぐっていくことで、
“State of the Art”とはなんなのかが掴めていくのではないだろうか。
そして「世界の一流品」や名器と呼ばれるオーディオ機器とのイメージを比較していくと、
やはり”State of the Art”では技術ということが、より重要視されることになる、と考える。
その技術も、そのオーディオ機器のみで実現され終っていくのではなく、
すくなくとも技術の「種(seed)」として残していったオーディオ機器こそが、
実は”State of the Art”なのだとおもう。
その「種」がそのまま花開くこともあるだろうし、
ほかの「種」と異種交合で花を咲かせることもあるはず。
そうやってオーディオは発展していくものだろう。
そうなると難しいのは、”State of the Art”にふさわしいかどうかは、
その製品が登場した時点では正しくは判断しにくいところにある。
ある年月が経ってからでないと、はっきりとはいえない面も、またあるからだ。
技術の「種」ということを抜きにしても、
「技術、とくに新しい技術がどのように高度に実現しているか」、
そして「db」誌による”revolutionary break-through in sound technology”
(音響技術における革命的に壁を破ったもの)
といったことを厳密にとらえすぎてしまうと、
“State of the Art”と呼べるオーディオ機器は選定することが難しくなる。
“State of the Art”は個人的には魅かれることばである。
けれど、オーディオ雑誌の企画として、これを賞の名称として使う場合には、
自分の首を絞めてしまう難しさがあることに気づかされることになる。