続・再生音とは……(その3)
生の音(原音)にはあって、再生音には存在しないもの。
まっさきに浮ぶのは、肉体である。
私が聴くのは、その多くがクラシックで、あとジャズが少し、
それ以外の音楽ももちろん聴くけれど、
私が聴く音楽のほとんどに共通しているのは、
演奏者の肉体があって、ある空間に音が発せられているということである。
この演奏者の肉体は、再生音にはない。
再生系のメカニズムのどこにも肉体の介在する余地はないのだから、
再生音に肉体がないのは、至極当然のことである。
それに録音の過程においても、
マイクロフォンがとらえているのは演奏者が己の肉体を駆使して発した音であり、
録音系のメカニズムのどこにも肉体を記録できる箇所はない。
再生音には肉体がない──、
こう書きながら思い出しているのは、
これもまた「五味オーディオ教室」の最初に出てくることである。
私にとってのオーディオの出発点に、また戻ってしまうことになる。