私にとってアナログディスク再生とは(デザインのこと・その18)
おもえば日本という国は、カートリッジをあれこれ交換して聴く、という環境に恵まれていた。
SMEの規格がいわば標準規格のように採用されて、
ほとんどのプレーヤーでヘッドシェルごとカートリッジを容易に交換できるようになっている。
単体で販売されていたトーンアームのほとんどが、やはりヘッドシェル交換型であった。
MM型カートリッジの特許はアメリカのシュアーとドイツのエラックがもっていたが、
日本では特許が認められなかったため、日本国内では国内メーカーからMM型カートリッジがいくつも登場した。
けれど、これらのカートリッジはシュアーとエラックの特許が認められている海外への輸出はできなかった。
日本でしか販売できない日本のメーカーによるMM型カートリッジの種類は、実に多かった。
それに国内のMC型やコンデンサー型など、他の発電方式のカートリッジ、
海外製のカートリッジの多くが輸入されていたし、1970年代のオーディオ販売店の広告には、
カートリッジをまとめ買いすることで、定価があってないような価格で売られてもいた。
私はというと、そのころはまだ高校生だったし田舎暮らしだったこともあり、
FM誌に載っている、その販売店の広告を見ては、
上京したら、このカートリッジとあのカートリッジを買うぞ、と思うだけだった。
なのに実際に上京したら、何度も書いているように、
とにかくSMEの3012-Rだけは買っておかなければ、ということで、
これだけは無理して買った(当時の広告では限定販売となっていたので)。
ステレオサウンドで働くようになるまで、手持ちのオーディオ機器は、この3012-Rだけだったから、
カートリッジをあれこれ買うぞ、というのは妄想に終ってしまった。
ステレオサウンドにいたことも大きかったと思うのだが、
結局、私はEMTのカートリッジがあれば、
あのカートリッジも、このカートリッジも欲しい、という気はあまりおきなかった。
ステレオサウンドの試聴室で聴けるし、
仕事でカートリッジの交換を頻繁にやっていると、自分のシステムでまで、
頻繁にカートリッジを交換して聴く、という気がなくなっていったのかもしれない。
それでも、ときどきノイマンのDSTを知人から借りたり、
オーディオテクニカから当時販売されていたEMTのトーンアーム用のヘッドシェルに、
いくつか気になるカートリッジを取り付けて聴いたことはあったけれど、
DST以外はEMTのTSD15にすぐに戻っていた。
そんな私でも、オルトフォンのSPUだけは、現行のカートリッジの中で気になっていた。