Date: 5月 22nd, 2013
Cate: 日本の音
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日本のオーディオ、日本の音(その25)

ある時「SIDE by SIDE」のことを話題にしたことがある。
A面のベーゼンドルファーとB面のスタインウェイの音色が、うまくその違いが出てくれるのかどうか、
そんなことを喋っていたら「そんなこと気にします?」といわれてしまった。

私は「気にする」と答え、楽器の音色の再現性は重視している。
けれど、一方にはそれほど重視しない、気にかけない聴き方をしている人もいることになる。

もうどこで読んだのか、いつごろ読んだのかも定かではないから、
細部に関しても曖昧なところがあるけれど、ある楽器演奏者がこんなことをいっていたのを憶えている。
「ぼくには絶対音感はないけれど、絶対音色感は、絶対音感を持っている人よりも高いものをもっている」と。
これだけを自信をもっていえる、とも。

昨年1月、「ピアノマニア」という映画について書いた。
この映画は全国上映はやらなかった。先月やっとDVDとして発売された。

この映画の主役はスタインウェイの調律師、シュテファン・クニュップファー。
著名なピアニストも何人か登場する。
そのなかのひとり、ピエール=ロラン・エマールの「フーガの技法」の録音が焦点となり映画は進んでいく。
ピエール=ロラン・エマールが「フーガの技法」でシュテファン・クニュップファーに要求することは、
かなり厳しいものだった。
「ピアノマニア」を観ていて、そこまで要求するのか、それに応えるのか、とおもっていたほどだ。

それがどういうものだったのかは、ぜひDVDを購入して確認していただきたいのだが、
この「ピアノマニア」から伝わってくることのひとつは、ピアノの音色に対する要求の厳しさである。
ピエール=ロラン・エマールが求めた「音色」が「フーガの技法」でどれだけ実現されているのか、
それは、ドイツ・グラモフォンから出ているCDを聴いて確認してほしい。
ピエール=ロラン・エマールが求めた「音色」はひとつではない。

「絶対音色感」というものが、録音の「場」においてだけでなく、
再生の「場」においても、非常に高いレベルで要求されているわけで、
それは「SIDE by SIDE」におけるA面とB面の、ベーゼンドルファーとスタインウェイの音色の違いよりも、
同じピアノでのことだけに、もっとシビアともいえる。

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