オリジナルとは(続×十・チャートウェルのLS3/5A)
1980年代から1990年代にかけて、シドニー・スミスがマランツのModel 7の、
メインテナンスと改良を行っていた、と聞いたことがある。
シドニー・スミスの手によるModel 7の実物を見たことがないので、
その詳細についてははっきりしないけれど、コンデンサーをすべて別の銘柄に交換している、らしい。
Model 7の信号系に使われているのは、
アンプの部品にさほど関心のない人でも、名前だけは聞いたことがある、というBlack Beautyである。
これが高温多湿の日本では、ことごとくダメになってしまう。
どんなに大切に使われてきたModel 7でも、それが日本で、ということならば、
Black Beautyは全交換ということになることが多い。
そのダメになったBlack Beautyを、何と交換するのか。
Black Beautyの未使用の新品を何としてでも入手して交換するのか、
それとももっと信頼性の高いコンデンサーにしてしまうのか。
人によって、考え方によって、異ってくる。
シドニー・スミスはBlack Beautyは選ばずに、当時のTRWのコンデンサーに置き換えた、そうだ。
TRWのコンデンサーは現在のASCのコンデンサーである。
TRWになる前はGoodAllという銘柄のコンデンサーだった。
シドニー・スミスに直接確かめることはもうできないので真偽のほどはっきりしないものの、
Model 7にもGoodAllのコンデンサーが使われる予定だったのだが、
コストの面でBlack Beautyになってしまった、とのことである。
だから本来使われるはずであったコンデンサー、
つまりシドニー・スミスがメインテナンスを行っていた時期のTRWのコンデンサーへと置き換えている。
この変更をオリジナルの改変、さらにはオリジナルの冒瀆と捉える人もいれば、
逆に、TRWのコンデンサーへの換装こそが、
Model 7の設計者であるシドニー・スミスの頭の中にあった「オリジナル」の実現、という受けとめる人もいる。
これは、どちらが正しいか、ということではなく、何をオリジナルとするかの違いによって生じることである。