境界線(余談・続々シュアーV15 TypeIIIのこと)
瀬川先生はいわれた。
つまり、シュアーのV15 TypeIIIはひとつの目安となるカートリッジである、と。
V15 TypeIIIと同クラスのカートリッジを比較して、V15 TypeIIIのほうがうまく鳴ったとしたら、
その装置はまだ調整が足りない、不備があるか、装置自体のグレードアップの必要性がある、と考えていい、
V15 TypeIIIよりも同クラスの他のカートリッジがうまく鳴るのであれば、まずまずうまく鳴っている、
──そういう判断に使えるカートリッジがV15 TypeIIIなんだ、と。
これはあくまでも瀬川先生が好んで聴かれる音楽に対して、ということも忘れてはならないし、
瀬川先生が音に求められているものがどういう性質のものであるのかも理解していなければ、
V15 TypeIIIは、音の良くないカートリッジだと誤解されることにもなろう。
このときのシステムは、スピーカーシステムはJBLの4341、
アンプは少し記憶が曖昧なのだが、マークレビンソンのLNP2とSAEのMark2600だった。
プレーヤーはラックスのPD121にオーディオクラフトのAC300C。
たしかに、このとき聴いたV15 TypeIIIの音は、そういう感じの音だった。
V15 TypeIIIでならではの音は確固としてあるものの、
それが必ずしも、このときのシステムの向っている方向と同じところを向いているとは言い難い、
かといって反対方向を向いているわけではないのだが、どこかしら違うところに向っているという感じがあり、
他のカートリッジの個性が魅力として聴こえるのには反対に、
V15 TypeIIIの音の個性はアクの強さとして感じられたのが、いまも記憶に残っている。
ただし、もう一度ことわっておくが、
これは瀬川先生好みのシステムで、しかも瀬川先生が持参されたレコードを聴いての印象であり、
システムとレコードが大きく傾向が異ってくれば、違う印象になる可能性はある。
だからダメなカートリッジというわけではなくて、
あくまでもV15 TypeIIIは、
瀬川先生がいわれるようにターゲットをうまく絞って音づくりしたがゆえに大成功したカートリッジであるし、
それは、うまいつくりのカートリッジということでもある。