ワイドレンジ考(続ウェストミンスターとグールドのブラームス)
菅野先生は、タンノイウェストミンスターの音を評して
「ウェストミンスター・ホールで音楽を聴く」という表現を使われている。
そのとおりだ、と思う。
ウェストミンスターというスピーカーシステムで音楽を聴くことは、
聴く音楽がなんであろうと、ウェストミンスター・ホールという、特有の響きをもつホールで聴く印象が強い。
スピーカーシステムには、どんなモノであろうとそれ固有の音、響きをもっているものだから、
どれひとつとして同じ音のするモノは存在しないし、ステレオ再生で聴き手の前にひろがる音場も同じではない。
だから、すべてのスピーカーシステムにもそういう傾向はある、といえるものの、
ウェストミンスターのその傾向は、ひときわ濃い。
他のスピーカーシステムでは、その固有の音、響きがホールをイメージさせるほどのものではない。
だから、型番のあとにホールをつけたくなるようなスピーカーシステムは、
現行のモノではウェストミンスターだけ、といえるし、過去のモノでもそう多くは存在しない。
ホールというと、どうしても大きな空間をイメージする。
現行のウェストミンスター・ロイヤル/SEの寸法は980(W)×1395(H)×560(D)mm、
内容積は530リットルと発表されている。
そうとうに大型の堂々としたサイズだから、
ウェストミンスター・ホール・イコール・大ホールとイメージされる方は少なくないと思う。
けれど、私の印象では決して大ホールではない。
中ホール、もしくは鳴らし方や組み合わせるアンプなどによっては、小ホールとイメージする。
サイズは小さいけれど、響きは濃密でステージとの距離もそれほど遠くない。
眼前で鳴る、というほど近くはないけれど、遠くない、というよりも近い、ともいえよう。
もちろんウェストミンスターを、たとえば40畳とかそれ以上の部屋に設置して鳴らすのであれば、
ホールの大きさに対するイメージは変ってくるにしても、それにしても大ホールという感じはしない。
そこがウェストミンスターというスピーカーシステムの、このラッパならではの良さだと思っている。
ウェストミンスターは大きなスピーカーシステムではあっても、
意外にも親密な音楽の接し方の出来るラッパであり、
だからこそウェストミンスターに関してはオートグラフほど部屋の広さを要求しないようにも感じている。