オーディオの楽しみ方(読み方について)
ステレオサウンドにいたとき、音を言葉で表現することの難しさについて、
編集部の先輩のNさんとよく話していた。
オーディオ雑誌からは、昔から言われ続けている通り、そこにあるのは文字と写真とイラスト、図版などであり、
誌面からは音は出てこない。
視覚的なもので音を読者に伝えるために、オーディオ評論家だけでなく編集者もあれこれ考え続けていた。
何度話し合ったところで、決定打はない。
そういうものが、もし世の中に存在しているのであれば、誰かがすでに見つけていたはず。
それが見つからないからこそ、オーディオ評論が面白い、ともいえる。
そういえば、菅野先生から10年ほど前に聞いた話がある。
菅野先生が髪を切りにいかれている店で、
「オーディオにはまったく興味はないんですけど、
音を表現する文章は面白いからときどきオーディオ雑誌を読んでいます。」
と店のスタッフの方に話しかけられた、ということだった。
菅野先生は、意外な話として話された。
私も意外な話として聞いていた。
オーディオに興味のある人は、たとえばスピーカーシステムの買い替えを検討している人は、
スピーカーシステムの特集記事、新製品の試聴記事が載っていれば、
その文章から、そのスピーカーシステムがいったいどんな音をなのか、
そのスピーカーシステムの能力の高さはどの程度のものなのか、
いま鳴らしているモノよりもどれだけいいのか、
そしていま自分が求めている音をほんとうに実現してくれるものなのか、
はたまた価格に見合った音、価格以上の音を出してくれるのか、等々、さまざまな情報を読み取ろうとする。
けれど、菅野先生が話してくれた人は、
そんなことにはまったく無関心なのだから(オーディオに関心がないのだから)、
音の表現方法の面白さを、オーディオマニアよりも純粋に楽しんでいる、ともいえるわけだ。