モノと「モノ」(その11)
オーディオでは、アンプ、スピーカーシステムといったオーディオ機器はハードウェアであり、
LP、CD、ミュージックテープなどはソフトウェアである。
ハードウェアの価格は、その製品の開発費、製造コスト、流通コストがかかっているものは価格も高い。
ごくまれには、これでこの価格? と疑いたくなるような値がつけられている商品もあるにはあるが、
総じて価格と、その製品のコストは比例関係にある、といえる。
ところがソフトウェアとなると、
有名な音楽家によるものも新人の演奏家によるものも、値段は同じである。
さらにオーケストラを録音したものも、ピアニストのソロ演奏のものも、
録音にかかわっている演奏家の人数には大きな開きがあっても、レコードの値段は同じである。
レコードというソフトウェアの値段は、そういうものだと思っていた。
音楽の内容と値段は直接の関係はないもの、と。
この価格設定の違いが、ハードウェアとソフトウェアのもっとも大きな違いなのだ、とも思っていた。
けれど、1991年からMacを使うようになると、
パソコンの世界においては、ソフトウェアの価格がレコードの価格のように、
すべて同じではないことを最初から(なぜだか)当り前のように受けとめていた。
当時はまだCD-ROMはほとんど普及していなかったし、インターネットという単語も聞くことはなかった。
ソフトウェアは、だから3.5インチのフロッピーディスクでの供給だった。
つまりソフトウェアの容量の大きなものはフロッピーディスクの枚数が増えていく。
当時、Photshopのヴァージョン2か2.5だったと思うが、
フロッピーディスク10数枚を何度も入れ替えしながらインストールしていった。
レコードでも組物は当然価格は増す。
ワーグナーの「指環」は、だから他の1枚で収まる音楽にくらべると価格は高い。
とはいうものの、例えば10枚の組物でも、
1枚のレコードの10倍の価格ではなく、もう少し安い価格がつけられている。
パソコンのアプリケーションはフロッピーディスク1枚で供給されるものでも、価格はかなり違っていた。
フロッピーディスク10数枚のアプリケーションは、
フロッピーディスク1枚のアプリケーションの10倍の価格になる、とは、だからならない。