ある写真とおもったこと(その4)
スティーブ・ジョブズはオーディオマニアだった。
つまりは再生するオーディオ機器によって、同じレコードが違う鳴り方をすることは当然知っていたわけで、
また同じ再生装置でも調整次第で音が変化することも知っていた、と思っていいだろう。
日本でいわれている「音は人なり」という意識があったのかどうかはわからないが、
少なくともジョブズもオーディオマニアであるのだから、
自分が鳴らしている音は世界にひとつだけ、
似たような音は他にもあるかもしれないが同じ音はない、ということは意識にあったはず。
そういうジョブズがiPodをつくった、ということが、
オーディオマニアとしてiPodを捉えたときに、ひじょうに考えさせられることがある。
つまりiPodは、基本的に同じ音を聴くモノだ、ということ。
iPodが登場したばかりの頃、搭載しているハードディスクの容量はそれほど大きくはなかった。
だから必然的にCDにおさめられている音楽を圧縮することになる。
MacでiTunesを使って圧縮してiPodへコピーする。
iTunesの環境設定で、圧縮の変換レートは変更できるものの、
初期設定のまま変換して、iPodに付属している白いイヤフォンで聴くかぎりにおいては、
同じCDをリッピングしていれば、iPodを通じて聴く音は同じである。
いまはどうなのか知らないが、初期のころのiTunesはヴァージョンによって圧縮の仕方に多少の違いがあって、
リッピングを行ったiTunesのヴァージョンによって多少は音の違いが生じていたけれど、
ヴァージョンが同じ、変換レートが同じであれば、それにiPodも同じ世代のものであれば、
音は原則として変りようがない。
ソニーが開発したウォークマンとAppleのiPodはアナログとデジタルという違いはあっても、
音楽を片手で持てるモノにおさめて、
ヘッドフォン(イヤフォン)で聴くことを前提としているところは共通している。
けれどウォークマンはカセットテープにレコードをダビングして、それをソースとして聴く。
同じレコードをダビングしても、レコードを再生するプレーヤーの違いによる音の違い、
たとえ同じプレーヤーでも設置場所をふくめた使いこなしの差による音の違い、
アンプに違いによる音の違い、カセットデッキによる……、使用テープによる……、
さらにデッキやテープが同じでも録音レベル調整によっても音は確実に変ってきて、
同じレコードのダビングだとしても、ダビングする人が違えばそれだけ音は違ってくる。
そういうところがiPodには、ない。