Date: 8月 6th, 2011
Cate: アナログディスク再生
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私にとってアナログディスク再生とは(その19)

ここまで書いてやっと、この項の(その1)で紹介した高橋氏の問いかけに答えられる。

「死ぬまでに一度、聞いてみたいアナログ・カートリッジか、プリアンプはありますか?」

これを見たときに真先に浮んだモノは、実はふたつあった。
ひとつはすでに書いているように927DstとDSTの組合せ。
もうひとつは、これもすでに製造中止になってしまっているカートリッジではあるが、
エンパイアの4000D/IIIである。

DSTはいま中古の状態のいいものを買おうとすれば、数十万必要となるようだが、
4000D/IIIはDSTのような存在ではない。
当時の価格は58000円(1977年)。
同じころ、オルトフォンのSPU-G/Eが34000円、MC20が33000円。
EMTのTSD15が65000円で、XSD15が69000円だったから、1970年代の高級カートリッジのひとつではあったが、
特別高価というわけでもない。

4000D/IIIの音を聴いたのは、当時住んでいた熊本の販売店に瀬川先生が来られたときだった。
4000D/III以外にオルトフォン、ピカリングのXSV/3000、XUV/4500Q、
エレクトロ・アクースティック(エラック)STS455E、EMTのXSD15など10機種ほどの、
ご自身でお使いのカートリッジを持参されての試聴会だった。

とにかく、このときの4000D/IIIの音は、いまでも耳に残っている。
クラシックやヴォーカルをかけたときにはまったく魅力を感じなかった4000D/IIIだったのに、
ジャズ(記憶に間違いがなければ、菅野先生録音の「ザ・ダイアログ」)で一変した、その音は、
ヨーロッパ系のカートリッジでは絶対に鳴らせない領域ようにも感じていた。

レコードで、スピーカーから鳴ってくるドラムスの音が、こんなに気持ちいいのか、
湿り気のまったくない乾いた、というよりも乾ききった明るい音は、音を決めていく。
そう、音が決る、という感じで、目の前にストッストッストーン、と音が展開していった。

日常的に聴きたい音ではなかったけれど、「ザ・ダイアログ」のためだけに欲しい、と思ったことは、
いつまでたっても忘れようがないほど、刻みつけられている。

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